新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

現代イタリア政界の妖怪

 先月イタリア総選挙が行われ、かつてムッソリーニに傾倒していたという女性党首の極右政党が第一党になった。現代イタリア政界では複数党の連立が当たり前で、組閣に1~2ヵ月はかかるらしい。連立政権の一角に、元首相のベルルスコーニ氏の名前があった。20年近く前にセックススキャンダルで首相の座を追われた彼だが、不死鳥のように表舞台に戻ってきたらしい。

 

 2018年発表の本書は、法学者村上信一郎氏が現代イタリア史としてまとめたもの。1990年代から通算8年ほど首相を務めた彼の足跡を追うことで、イタリア社会・政治の歪みを解説している。

 

 ベルルスコーニは、ミラノ生まれの実業家。貧しい家庭に育ちながら、高校以降は自ら商売をして学費・生活費を稼いで法学部を卒業している。大学在学中から不動産業に入り込み、新設集合住宅からニュータウン開発で事業を大きくした。

 

        

 

 ただ街を作るだけではなく、海外から集めたコンテンツを武器にケーブルTV事業にも乗り出した。やがて民間大手TV3局を支配するまでに至る。資金についてはマフィアとの関係があり、独禁法逃れには政界のパトロンを使った。フリーメイスンの秘密結社にも入り、政界進出を狙っていた。

 

 1992年にイタリア政界が大きく揺らぎ、戦後の政党が無くなってしまった。その機に乗じて<フォルツァ・イタリア>を立ち上げた彼は、1994年に中道右派連合を率いて首相に就任する。第一期こそ7ヵ月で首相を退いたものの、その後20年に渡り、中道左派連合<オリーブの木>との政権争いをしながら断続的に首相を務めた。

 

 首相在任中常に何かで訴追されており、司法界を制限する法律改正をしたことも多い。ポピュリストというよりは、独善的な支配者と思われる。やったことは政治や社会の「徹底した私物化」であり、イタリアの自由主義を(ムッソリーニに次いで)踏みにじった妖怪だとのこと。早く表舞台から消えて欲しいのですが。