2013年発表の本書は、軍事スリラーの大家トム・クランシーの遺作。昨年スティーブ・ピチェニックとの共著「暗黒地帯」でも取り上げられたウクライナ紛争を、大統領ジャック・ライアンのシリーズでも扱ったものだ。共著者はマーク・グリーニー。クランシーが10月に死去し、12月に本書が出版されて、翌年2月にはロシアのクリミア併合が起った。
ロシアには「大ロシア復活」を掲げるヴォローディン大統領が就任、軍備を強化してエストニアに侵攻した。これは米軍中心のNATO軍が阻むのだが、ヴォローディンはウクライナを狙っていた。かつてのKGBは対外情報庁SVRと連邦保安庁FSBに分かれていたのだが、SVRの前長官と現長官が相次いで暗殺された。前長官はライアン大統領の友人で、ホワイトハウスにライアン一家を訪れた時には放射性物質を盛られていて、米国医療機関も手の施しようがなかった。
これらの暗殺の狙いは、FSBの長官タラノフにSVR長官も兼務させ、事実上KGBを復活させることにあった。そうして国内を引き締めた上で、ウクライナ侵攻を狙っている。ライアン政権はCIAのキーウ支局を強化中だったが、民間情報機関<ザ・キャンパス>やかつて<レインボー>を指揮していたクラーク大佐らを現地に派遣する。
一方<ザ・キャンパス>から離れた大統領の息子ジャック・ジュニアは、英国の金融調査会社で、ロシアのガス会社<ガスプロム>の不正を追いかけていた。同社が英国などのエネルギー会社を政治的な罠にはめ、膨大な利得を産み、さらにマネーロンダリングをかけているらしい。
物語はライアン政権中枢の動き、キーウに飛んだ<ザ・キャンパス>の調査、ジャック・ジュニアの不正追及が織り上げられて進む。そして第二巻の終わりに、ついにセバストポリに近いCIA施設に、何者かが襲撃をかけてきて戦闘が始まる。ポーランドからMV-22、トルコからF-16が支援に向かうのだが・・・。
<続く>