新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロシアのウクライナ侵攻(後編)

 <ザ・キャンパス>がセバストポリから無事に脱出したころ、ジャック・ジュニアは独自にスイスのプライベートバンクのカネの流れを追っていた。ところが所属する調査会社の経営者キャスターは、ジャックを外そうとする。実はジャックが追っているカネの流れは、30年前に父親のCIA分析官ジャック・シニアがロンドンに派遣されて追っていたものにつながっていた。

 

 物語は、30年前スイスで死んだSISの工作員プライベートバンクの何を調べていたかを追う父親の話、現在も同じカネを追う息子の話、そしてウクライナ戦線での戦況が交互に描かれる。読者としてはクランシーや戦術級のチャンピオンたるグリーニーに期待しているのは「戦況」なのだが、それは非常に少ない。

 

    

 

 クリミアは比較的簡単に制圧できたのだが、東部のドンバス・ルハンシクへのロシア軍の侵攻はうまくいかない。ウクライナ軍の装備は貧弱(T90対T64)なのだが、現地にいる英米軍(NATO?)400名余りが、ハイテク兵器を使ってウクライナ軍を支えるからだ。武装は多くないOH58ヘリでも、電波兵器でロシア軍車両を照準して、ウクライナ軍のミサイルなどを誘導できる。T90やMLRSも、ヘルファイアミサイルの餌食になってしまう。

 

 ただ紙幅は30年前の父親の危機と、それにからんだ息子の危機に多く費やされる。プライベートバンクのカネはソ連崩壊時にKGBが隠したもので、それがロシア大統領やFSB長官のスジに繋がってくる。カネに迫ったジャック・ジュニアにはロシアマフィアを隠れ蓑にしたスペツナズが襲い掛かる。

 

 結局<ザ・キャンパス>のメンバーがジャックを救い、ロシアの悪漢を捕まえる。このあたりグリーニー流の迫力は充分。4分冊にもわたるクランシーの遺作、面白かったのですが、ちょっと冗長かも。「米露開戦」は大げさすぎる邦題でした。