新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アリバイに護られた予告殺人者

 1920年代は本格ミステリーの黄金期、巨匠エラリー・クイーンもデビューした1929年に、アリバイ崩しものの教科書のような本書も発表されている。このジャンルは1920年クロフツ「樽」以下の先例があるが、作者クリストファー・ブッシュはデビュー作の本書を「完全殺人事件」と題して果敢に挑戦している。

 

 プロローグとして、3つのシーンが描かれる。失踪した男の不倫を疑う妻、不思議な指令を受けて実行する寡黙な男、俳優の代役を探す広告について噂する男たち。全くつながりの見えない3つの話が、事件解決の重要な手掛かりとなる。

 

 新聞社などに送られてきたのは、殺人を予告する特命の手紙。自分は殺人をしなくてはいけない状況に追い込まれたが、絶対に捕まらないと豪語している。徐々に日付や地区が明らかになり、ロンドン警視庁は指定地区に網を張った。

 

        

 

 しかし、網をかいくぐった犯人は吝嗇家の富豪、トマス・リッチレイを刺殺しそのむね通報してから姿を消した。リッチレイには4人の甥以外の身寄りはなく、家政婦との結婚を考えていた。遺産を狙っての犯行なら、4人の甥には動機がある。しかし2人はロンドン市街で目撃されているし、1人はスコットランドに住み、もう1人はフランスを旅しているとのアリバイがあった。

 

 警察が捜査に行き詰る中、大手広告代理店ジェランゴ社のCFOトラヴァースは、事件解決に乗り出す。元警視庁警部だった自社の探偵フランクリンを使って、4人のアリバイ崩しにかかる。フランクリンは元の上司ホウォートン警視とも連絡を取りながら捜査を進めるのだが、どのアリバイも確固としていた。

 

 高校生の時一度読み、英仏の地理がわからずに解決編に納得しなかった記憶があります。今回新橋の古本市でボロボロになった本書を見つけて買い、もう一度読んでみました。確かに緻密な本格ミステリーですが、ちょっとタイトルは「誇大広告」かもしれません。