新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

トリックの見つけ方

 本書は鮎川哲也の短編集、恐らくは雑誌などに掲載されたものを光文社で短編集にしたものと思われる。表題通り、アリバイが争点となる短編4作と中編がひとつ、それに、

 

・時刻表5つのたのしみ

・私の発想法

 

 という2つのエッセイが添えられている。「発想法」とはいかにトリックを考えつくかという話で、ミステリー作家にとっては宿痾の病である。作者自身大変苦労されているようで、

 

・机に向かっても、遊んでいても思いつくとは限らない。

・締め切り1週間前から胃が痛くなり、食欲もなく、怒りっぽくなる。

 

 と告白している。クリスティが「お風呂でリンゴをかじりながら考える」というのはきれいすぎ、カーが「バケツ1杯のコーヒーを飲んで徹夜する」のが正直だろうといい、この手の質問に一切答えないクイーンが立派だとコメントしている。

 

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 本書の特集にいう「アリバイ崩し」は英国ではクロフツの「樽」、日本では作者の「ペトロフ事件」が先鞭をつけ、松本清張「点と線」森村誠一「新幹線殺人事件」や津村秀介や西村京太郎の諸作で日本の本格ミステリーの表看板になった。その背景には、日本の公共交通機関の正確性や発達があった。作者も時刻表マニアではないが、時刻表を見るのは好きだとエッセイで述べている。

 

 アリバイは「現場不在証明」だから、主として殺人の犯行が行われたと思われる時間に別の場所にいたこと、犯行が行われた場所にたどり着けないことが証明されれば「無罪」となるというもの。犯人の側からすれば、時間か空間を誤認させることで偽のアリバイを作ることが可能になる。

 

 殺害した時間や場所を誤認させるためには、死体の移動・替え玉が被害者を装う・死亡推定時刻を誤らせるなどの手段がある。たどり着けない「証明」には、時刻表のアナを突くような移動手段も使える。これらをもっともらしく見せるために、写真・郵便・電話・電子メールなどが利用されることも多い。

 

 ただ昨今の「Nシステム」や、携帯電話のGPS、高度な検視技術、いろいろなところにある監視カメラなど、偽アリバイを作ろうと思ったら大変な労力が必要な状況にある。作者も2002年には亡くなり、僕の好きな作家津村秀介もその前に亡くなっています。もう「アリバイ崩し」に真正面から取り組むのは難しい時代かもしれません。