新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アンプレザントネス文学

 1886年発表の本書は、ロバート・ルイス・スティーブンソンの代表作。わずか120ページ足らずの中編だが、怪奇小説の古典としてよく知られているものだ。ただ僕自身もそうだが題名「ジーキル博士とハイド氏」は知っていても、ちゃんと読んだ人は多くないと思う。

 

 作者はイギリス生まれ、工学を学びながら弁護士になった。詩人でもあったがアメリカにわたって「宝島」や本書のような小説を発表して有名になった。しかし生来病弱だったようで、44歳の若さで亡くなっている。

 

 医学・法学の博士号をもつ高潔な紳士ジーキル博士の家に、いつのころからかハイド(隠者)と名乗る醜怪な容貌の小男が出入りするようになった。ハイドは傍若無人で子供を路上で踏み倒すなどしていたが、ついには上院議員をステッキで殴り殺すという事件を起こす。

 

 ジーキル博士の顧問弁護士アタスンは、博士の遺言状の管理者だが「死後全財産をハイド氏に譲る」とあるのを知っていたから、二人の間に何があったのかといぶかる。ハイドの行方は杳として知れなかったのだが、ジーキル博士もしばしば行方不明になるなど不思議なことが続発する。

 

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 そしてジーキル博士と親交深かったラニョン博士が、不思議な遺書を残して死ぬ。その封筒の表には「私の死後アタスンに渡せ」とあり、開封するとさらに封書が有り「ジーキル博士が死亡もしくは失踪するまで開けるな」と書いてあった。

 

 実は(みなさんご承知のように)ジーキル博士とハイド氏は同一人物、大柄な中年の博士はある薬を飲むと小柄な若者に変身するのだ。ジーキル博士は温和な人物だがハイド氏は悪行を楽しみとする犯罪者、博士らの死後封書が開けられ、博士の若いころからの二重人格と、それが実体にまで影響するようなった薬の存在が明かされる。

 

 2つの人格は記憶という点だけを共有していて、行動様式は真逆。ジーキル博士はハイド氏を困った息子のように思っているが、ハイド氏は博士(の人格)など歯牙にもかけていない。

 

 英国にはアンプレザントネス(Unpleasantness:不愉快)文学というジャンルがあり、高潔の志が悪事も働くという人間の裏面を覗く種のものらしい。本書はその先鞭のようなものだと解説にある。

 

 なるほどとは思いましたが、持って回った言い回しなど、読みづらい小説ではありました。まずは古典を経験したということで。