新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

神学は外交の必要スキル

 本書(2020年発表)は何冊かIntelligence関係の書籍を紹介している、元外務省分析官佐藤優氏の近著。Book-offで最初に手に取った動機は、現役時代南部ドイツのコンスタンツという街で1年の1/4を過ごした経験があったから。表題にあるヤン・フスなる人物は、神聖ローマ帝国コンスタンツ公領のその街で宗教裁判に掛けられ有罪となって火刑により命を落とした。

 

 上っ面の歴史は知っていたもの、その「事件」のことをもう少し詳しく知りたいなと思って、他の新書本と一緒に買ってきたわけだ。1414年から数年にわたって行われた「コンスタンツ会議」では、当時教皇が3人もいてキリスト教会が混乱していた事態を解消しようとしたもの。その中の1議題として、異端論を吐くフスらが取り調べられた。彼は自説を曲げず、有罪判決を受ける。

 

 その自説と言うのは、人は現世の生き方で死後の予定(天国or地獄)が決まるとする教会の教義と違い、死後の予定は最初から決まっている(救霊予定説)というもの。教会が信者から「多く貢げば天国に行ける」と搾取することを戒めたものらしい。加えて教会が不正蓄財をし、贅沢三昧をすることを糾弾している。

 

        f:id:nicky-akira:20210517135139j:plain

 

 宗教改革は通常16世紀のマルチン・ルターやカルヴァンが有名だが、これはその時期にグーテンベルグ活版印刷が完成して出版が容易になり、記録も多く残るようになったから。その1世紀前にフスらは「改革」を唱え、相応に広めていたのだ。

 

 筆者は同志社大学神学部大学院修了後、外務省に入省している。神学と外交の関係について、僕は理解できなかった。しかしキリスト教の教義、その過去や変遷、聖書の意味など本書を読んでいくにしたがって、ぼんやりイメージが湧いてきた。筆者がロシアや欧州を相手に分析官を務めることができたのも、語学と共にキリスト教への造詣があったから。対峙するロシア人や欧州(フスは下内のチェコ出身)人の心の動きが理解できるからである。

 

 本書の大半は、チェコプロテスタント神学者フロマートカ(1889-1969)の書を引用している。門外漢の僕には、難解そのものだ。ただ欧州人の「何か」を理解するヒントにはなったように思う。

 

 なるほど、神学は外交の必要スキル・・・というわけですか。カトリックプロテスタントの差も分からないデジタル屋には、手の届かない話ですがね。