新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アダム・ダルグリッシュ警部登場

 本書は、以前「女には向かない職業」を紹介したP・D・ジェイムズのデビュー作。1962年発表の本書で、英国では高名な探偵であるアダム・ダルグリッシュ主任警部(後に警視)が登場する。作者の筆は田舎町の情景や事件の背景にある人間描写に定評があり、重厚な作風と言われる。その反面冗長との評価もあり、僕はどちらかと言うと後者を支持する。だから「女には・・・」の紹介文に書いたように、本格ミステリーなのに苦手な作家なのだ。

 

 特に後年の作品は長い。とても600ページを読み通す根気はないのだが、本書の頃はまだ350ページほど。これなら読めるかもと思って買って来た。田舎町マーティンゲールの屋敷を構えるマクシー家では、当主のサイモンが死の床にあり、妻エリノア、医師でもある息子のスティーヴン、夫を亡くした娘デボラが最後の時を待っていた。

 

        

 

 屋敷には住み込みの看護師、家政婦、メイドもいるのだが、新しく雇ったメイドのサリーの評判が良くない。シングルマザーの22歳、赤毛の美女だが裏表のある性格。礼儀正しく仕事はきちんとする一方、オフになると男たちに色目を使い、デボラと同じドレスを着て園遊会に来るような真似をする。

 

 そんな彼女が、ある夜スティーヴンに求婚されたと言い出した。家族や関係者が一様に反対する中、彼女は自室で扼殺されてしまった。動機のある容疑者が一杯いて、部屋のドアにボルトがかかっていた「半密室」の謎もある。さっそうと登場したダルグリッシュは多くの関係者の聴取を始め、邸内のものが犯人だと睨むのだが。

 

 筋立ては正統的な本格ミステリー、最後に関係者を一堂に集めてダルグリッシュが真相を暴く。ただ、作者の狙いは死んだサリーの実態を少しづつ解き明かしていくことにあるようだ。「ヒルダよ眠れ」に近い展開かもしれない。

 

 題名にある「女の顔」は実質主人公であるサリーのこと。ただの謎解きミステリーではないよということでしょうね。