新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

タロットカードの意味

 1934年発表の本書は、ジョン・ディクスン・カーのフェル博士ものの第三作。博士は「魔女の隠れ家」で登場し、続いて「帽子収集狂事件」も解決した。本書ではしばらく米国に出かけていて久々にロンドンに戻り、ハドリー捜査課長のところに顔を出したことで事件に巻き込まれる。

 

 今回の舞台は英国南西部グロスター州の田舎町、ロンドンから西に200kmほど行ったあたりと思われる。この田舎町の警察権を持つスタンディッシュ大佐の奇妙な応援要請から、物語は始まる。大佐の邸宅でパーティを開いたのだがその夜ポルターガイストが出現、その部屋に泊まっていた主教が発狂して盛装して階段の手すりを滑り降りるなど奇矯な行動をするというのだ。

 

 副総監から直接「話を聞いてやれ」と言われた警視がフェル博士と大佐の話を聞いていると、そこに大佐宅の近所で米国から来た学者が殺害されたとの連絡が入る。大佐自身も出資している出版社の経営をしている人物が被害者で、ハドリー警視の依頼によりフェル博士は現地に赴く。その時車に同乗したのが、これも米国から戻ったばかりのドノヴァン青年。彼は上記主教の息子であり、親子ともどもミステリーマニア。さらに現地では大佐の友人のミステリー作家モーガン氏も、事件に首を突っ込もうと待ち受けていた。

 

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 一人暮らしの被害者は、下男によると当夜嵐の中訪ねてきた顔を隠した男を自室に招き入れ、その後射殺体で発見される。訪ねてきた男の行方は分からない。死体のそばにはタロットカードの「剣の8」が落ちていた。

 

 殺人が行われたころ、被害者宅では停電が発生。後に故意にショートさせたことがわかる。殺害現場の部屋で2人の人物が目撃されているが、嵐の中で窓を開けてカーテンを開いていたらしい。この辺りにカギがあるなとは思うのだが、部屋の構造や「露台」という言葉の意味がわからず日本人には推理が難しい。

 

 例によってオカルト話や、タロットカードの意味(剣の8:正義の復讐)などが延々述べられ、主教の推理、ドノヴァン君の探偵ごっこなど、いわゆる「笑劇」が繰り広げられる。

 

 本書は日本では1958年に初版が出て、1993年に再版されるまでは絶版状態。僕が学生時代に買えなかった本のひとつ。再版時ハヤカワミステリー1,600冊記念で20作品は紙箱装丁で出版されたうちの1冊でした。ミステリーとしての出来はともかく、新品同様の装丁で入手出来て良かったです。