新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

譲られたのは全てをもたらすもの

 2日続けてジョン・D・マクドナルドの作品を紹介した。本書(1962年発表)が、最後に本棚に残っていた作者の著作。本当は船に住む男「トラヴィス・マッギーもの」が読みたいのだが、なぜか手に入らない。「ケープ・フィアー」はサスペンスもの、「夜の終わり」は犯罪小説なのだが、本書はSF・ファンタジーに近い。

 

 主人公カービーには、変わった叔父がいた。歳の割には老けていて、ブローカーとしては比類なきやり手。市場を予知するような勘を働かせ、連戦連勝し巨万の富を築いた。ギャンブルにも強く、ラスベガスではいつも大金をせしめている。叔父の会社に入ったカービーの仕事は、極秘のうちに寄付をすること。調査をして真に世の中に役立つことと分かれば、数万ドルを誰が寄付したか分からないように贈るのだ。

 

        

 

 そんな叔父が亡くなり、会社の重役や弁護士が集まって遺言に基づいて会社の整理や遺産分けを話し合われた。唯一の遺産相続人のカービーに遺されたのは金時計だけ、他の遺産は慈善団体に寄付されてしまう。しかも弁護士が言うには「使途不明金が2,700万ドルある」とのこと。実はカービーが寄付をして歩いたのが、そっくり使途不明になっていたのだ。

 

 葬儀の後、着服を疑われたカービーの下にはいわくありげな美女や、詐欺師やヤクザまがいの連中が集まる。訳が分からないうちに、カービーはお尋ね者になってしまった。しかし逃走中に、カービーは金時計に隠された秘密に気付く。これをうまく使えば、ヤクザも官憲も怖くない。ギャンブルにも絶対に負けない秘密兵器だった。原題は「The Girl, The Goldwatch and Everything」となっている。その気になれば、この世の全てが手に入るのだ。

 

 なんとも不思議な物語、作者の作風の広さは良く分かりました。それでも「トラヴィスもの」読んでみたいですよ。