新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

女の園の異邦人

 1959年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。イギリスの名門女子校で起きる連続殺人事件に、ポワロが巻き込まれる。味付けになっているのが、中東某国のクーデター。実際に中東の国で政変が起き、アリーという若い王子が飛行機で脱出しようとして墜落死を遂げた事件があった。作者はこれをヒントに、大好きなエスピオナージ仕立ての背景で殺人事件の1編を仕立てた。

 

 「二人で探偵を」でわかるように、作者は<明るいスパイもの>が大好き。初期のころには、ポワロもスパイ事件の只中に巻き込まれたりする。しかし格闘も銃器も不得手で<小さな灰色の脳細胞>が武器の彼では、荒事になると分が悪い。でもポワロも出したいし、スパイものの味付けもしたい・・・で、到達したのが本書のようなシチュエーションだったのではなかろうか。

 

 中東某国のアリー王子は、政変で出国しようとしていた。友人の英国人ボッブの協力を得て、先祖伝来の宝石を彼に託し、彼の操縦する飛行機で脱出するつもりだ。ボッブは宝石の隠し場所に困り、その国にいた姉ジョウンと姪のジェニファの持ち物に宝石を隠した。

 

        

 

 ボッブの暗号メモの内容が理解できないまま、ジョウンたちは船で英国に戻った。しかしボップたちの飛行機は墜ち、アニーともども亡くなってしまった。ジェニファは、名門校メドウバンクに入学した。そこは老園丁以外の全てが、校長も教師も生徒も女性という女の園。名門の娘でなくては入学できないところで、外国の王族の娘(ドイツやスウェーデンからも)もいる。そこにアニーの従妹にあたる王女シャイスタもスイスから転校してくる。

 

 メドウバンクでは、まず新任の体育教師が、次に副校長格の教師が殺される。さらにシャイスタが誘拐され、身代金の要求が来た。一連の事件の解決をある生徒から依頼されたポワロは現地に赴くが、女の園ではまるきりの異邦人だ。政府の特捜部パイクウェイ大佐と謎の男ロビンソン氏が暗躍する中、ポワロは関係者を集めて謎解きをするのだが・・・。

 

 女王らしい細かなトリックの積み重ねで、読者の既成観念がひっくり返る結末はもちろん、英国における戦後のエリート女性教育の在り方も描かれていて興味深い。後半2/5にしか登場しないポワロも、心なしか嬉しそうでした。