新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「千三」と言われた経営者

 2022年発表の本書は、昨年惜しくも亡くなった出井伸之氏のビジネスマンに対する「応援歌」。著者には20年ほど前にお会いし、デジタル政策の文書をまとめることのお手伝いをさせていただいた。曰く「官僚に筆を持たせるな」。本書にも、企業が監督官庁を意識するあまりあるべき事業発展ができていない(例:優秀な製薬業はあるのにワクチンのR&Dをしていない)ことへの批判がある。必ずしも「官僚=悪」ではなく、企業が唯々諾々と従っているのが問題との主張だ。

 

 筆者は文系ながら技術の会社SONYに入り、文系最初のオーディオ事業部長になった。企業風土として上司や権威におもねらない人が多かったのだが、その中でも特別とんがった人だったようだ。大風呂敷を広げ「千に三つしか当たらない嘘つき」と評されたこともある。

 

        

 

 国内・海外を問わず多くの社内転職を繰り返し、2度の左遷(子会社出向)も経験した。社外との標準化交渉など交流も深め、肩書ではない個人の力を磨いたとある。アル・ゴアの「情報スーパーハイウェイ構想」に触れ、アナログ時代の終焉を感じてTOPに進言した。

 

1)21世紀初頭、ネットワーク利用の巨大企業が出現

2)通信インフラを利用したビジネス統合者が勝つ

3)メディアは一方通行から双方向に変わる

 

 その思想は、社内に留まらず広く(他社にいた僕にまで)届けられた。しかし霞ヶ関や大手町の反応は鈍く、5年務めた経団連副会長時代にもいい思い出は無さそうだ。経団連企業であることを目的に入会する企業ばかりで、これは「元○○社部長」の名刺を持ち歩く退職者と同じだと手厳しい。

 

 退職金・定年・定年延長など不要だとの意見で、ちゃんとしたビジネスマンなら現在の企業の傘が無くても社会に貢献できることは多いとある。ベンチャー企業含めて「JOB型雇用」が当たり前とのスタンスだ。

 

 まだまだ教えて頂きたいことがあったのに残念です。この書は大事に仕舞っておきます。