新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

経済社会のエンジン・・・のはず

 2017年発表の本書は、一橋大学名誉教授で経済学者の関満博氏の現代中小企業論。日本企業のうち14.7%が中堅企業、85%が零細含む中小企業であって、それらの企業について改めて勉強するために買ってきたもの。

 

 著者は「45年ほど地域経済と中小企業を見てきた」ということで、

 

・1985年プラザ合意以前は、米国依存で汗がそのまま業績向上につながったが

・1992年のバブル崩壊以降は、中国・アジアやIT・環境といった複合要因で混迷

 

 した時代だという。1987年に約87万社あった製造業者は続く30年で半減した。グローバル化に成功した一部企業を除けば、事業承継に悩み吸収合併されたり廃業に追い込まれた。製造業以外でも事業者数は減少し、1986年に650万社あったものが、後に統計に加えられた宿泊・飲食・教育・サービス等(約200万社)があっても、2014年には550万社に留まっている。

 

        

 

 廃業の一方、製造業に関していうと、21世紀になってからの起業はほとんどない。事業承継をしようにも親族に適当な人材がおらず、有能な社員の後継を持ち掛けても「個人補償などの責任が重くなる」と家族が反対して受け入れられない。やむなく金融機関の仲介で吸収してくれる企業を探したり、廃業をすることになる。

 

 本書には、承継に成功し業容を転換したり事業を拡大・多様化した成功例が20ほど紹介されている。水産加工会社「三陸おのや」が、震災を機に外食向け中心から個人通販客を開拓した話があった。成功例の大半は、マーケティングを導入し構造改革を図ったもの。要するに、それまで市場や販路を意識せず「汗をかくだけ」だったことが分かる。中小企業は経済社会のエンジンだと筆者は言うが、その未来はどうだろう。

 

 グローバル化の話は少しだけ、中国に製造拠点を移したくらいで、期待したデジタル化の話は皆無。まあ、基礎知識は得られたので買った甲斐はありましたが。