新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

使命感を持つ国士的な政治学者

 僕は湾岸戦争のころから政治討論番組を見るようになったが、「朝まで生TV」と並んで必ず見ていたのが「サンデープロジェクト」。いずれも田原総一朗氏の司会になるものだが、「サンプロ」のコメンテータに本書の著者高坂正堯教授がいた。関西弁でトボけた語り口だが、発言内容はストレート。歯に衣着せず、核心を突いたコメントが印象的だった。

 

 著者の専門は国際政治学、多くの著書があり本書(1987年発表)はおそらく一番薄い本。専門外の僕にとっては、有難い教科書だった。本書にもあるようにこの学問では、外国語による会話力と歴史の知識が必要だ。外国語はからきしだが歴史(戦史)の好きな僕は、勝手な国際政治の解釈を本書で叩き直された。つまり、

 

・歴史は繰り返さない、同じシチュエーションはあり得ない

・歴史は真実とは限らない。勝者によって書き換えられるのが常だ

 

 ということ。ただ歴史の中に「真理」は存在していて、国の傾向というのは簡単には変わらないともある。例えば、ソ連は逆境になると強く出るが、現実の力関係は重視するからやがては妥協が成立するとある。これなどはまさに今のロシアを見るのに重要なヒントだ。

 

        

 

 また米国については、実にムラの多い国で調子のいい時と悪い時の落差には驚かされるとある。産業も地域も個人も、これが同じ国かと思わせるというのは、今もそうだから「真理」なのだろう。加えて日本のイノベーションは「積み上げ式」だが、米国場合は「飛躍的」というのも、その通りだと思う。

 

 筆者が、国際政治力の高い国として挙げるのは英国である。古来気候的環境や資源に恵まれず人口も少なかった国だが、孤独に耐える国民性と懐疑主義に基づく粘り強さがあった。政治手法としても、課題を解決(Solve)することができない時は、収める(Settle)ことを多用する傾向にある。

 

 さらに中国をはじめとする(当時の)発展途上国との付き合い方については、

 

・各国は、権威主義的政府の必要性と民主化要請の間で揺れ動く

民主化のおせっかいを焼くのは良くないが、無関心でいるのもまずい

・各国の事情を正しく「見極め」、適切な付き合い方を考える

 

 べきだとある。この1年間でも中国・イラン・アフガニスタンなどの事情を見れば、これは「金言」と言えるだろう。解説では62歳という若さで亡くなった筆者を「使命感を持つ国士」と讃えています。僕も勉強させてもらいますよ。