「80日間世界一周」を書いた作家のジュール・ヴェルヌは、「いつの日か人類は、80時間で世界一周ができるようになる」と予言したらしい。本書は、それをやってみようと企み、実際に成し遂げたルポである。ただ最後に「実は87時間かかりまして、80時間台での達成です」とあるのは、ちょっとサギっぽい。「80日間・・・」の方は、81日かかってしまったと消沈する主人公たちに「日付変更線を越えたので、実は80日でできたのだよ」という福音がくるほど厳密なのだが。
筆者の近兼拓史氏はルポライター、ウィークリー・ワールド・ニュース・ジャパンの編集長でもあり毎年地球を2周以上するという。神戸在住で東京への移動も多く、新幹線ではなくLCCの<スカイマーク>を使っていたとある。海外取材もLCCを多用していたので、今回の企画は「10万円台での世界一周」と制約をつけ、実質各国のLCC乗り比べのようなものになった。
87時間かかってしまった原因は、ジェット気流に逆らう「西回り」を選んだこともあるだろう。僕自身が一度だけ世界一周出張(東京⇒ワシントンDC⇒ロンドン)をした時は素直に「東回り」をしてる。
各地の滞在時間もぎりぎりに削っているので、
・上海 6時間
・モスクワ 4時間
・デュッセルドルフ 4.5時間
・チューリッヒ 9時間
・ニューヨーク 4時間
ほどしか滞在できない。その中で、浦東で100階建てのビルに上り、旧レニングラードスタジアムでレーニン像に挨拶し、アルトビールとハンバーガーを流し込み、チューリッヒ駅舎を眺め、ブロードウェーで買い物をするのだ。
特に4時間しか滞在しないモスクワでは、(要るのだが)ビザを出してくれないで苦労する。チューリッヒでも乗り継ぎチケットを見て(麻薬等の)運び屋ではないかと疑われる。バカバカしくはあるが、汗と涙のツアーである。
筆者が褒めているのは<エア・ベルリン>、LCCながら堅実でちゃんとした運行をしているという。中国春秋航空は物売りが多く客は騒ぎ邦題、アエロフロートは以前よりは改善した「客らしい扱い」をしてくれるとある。
「COVID-19」禍に加えて世界中で国際関係が緊張しています。こんなバカげたツアーも、今は難しいでしょうね。笑わせてはもらえましたけど。