新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

西洋文明の行き詰まりを打破

 2021年発表の本書は、何冊も紹介しているVoice編集部編の世界の賢人もの。今回は東洋の賢人たち6人が登場する。欧州の賢人たちも、西洋文明の行き詰まりは認めていて、反グローバリズムや反テクノロジー、倫理への回帰などを訴えているが、東洋の賢人たちの西洋文明批判はもっと鋭い。

 

 日本の思想家佐伯啓思氏は、西洋思想の表層にある、

 

グローバリズム

・テクノベーション

・経済成長主義

 

 は限界だとして、西洋思想の深層にある古代ギリシアの「自然・意気・諦念」に立ち返るべしという。西洋の「石の文明」より東洋の「木の文明」がより深層に近い。

 

 ソニーコンピュータサイエンス研究所船橋真俊氏は、より自然に近い生態系環境で多種の作物を育てる「協生農法」を実践している。タネや苗以外、肥料なども持ち込まずに生態系を維持するもの。これも単品種大量生産による自然の歪みを正すものだ。

 

        

 

 ベンチャー投資家孫泰蔵氏は、米中に比べ日本のベンチャー投資は1/100ほどだと警鐘を鳴らすが、シリコンバレーでは本当に社会の為になるベンチャーが育つのか疑問も呈する。経済成長主義だけでは、良いベンチャーも育たたないというわけ。

 

 韓流研究者ホン・ソクキン氏は、韓流コンテンツは著作権の縛りを外したフリーコンテンツ化と強力なファンダムによって世界に飛躍したという。巷間言われるように韓国政府が丸抱えで支援した事実はない。ホン教授自身も日本のアニメの大ファンで、それが西洋と東洋の懸け橋になって、韓流がその橋の上を駆け抜けているという。今後この橋を、ベトナムなど東洋の国のコンテンツが駆けていくと予想する。

 

 中国のSF作家劉慈欣氏は、大作「三体」で異星人の侵略を受ける地球を描いたが、これは「日本沈没」などに触発されたもの。また今の中国が基礎研究にもっと投資しないと、社会が瓦解しかねない危機感に裏付けられたものだという。

 

 台湾のデジタル大臣オードリー・タン氏は「熟議民主主義(*1)」を唱え、市民と政府が協力し合う体制を整えつつある(これが新しい民主主義)という。「COVID-19」対策でも、シビルハッカーが対策アプリを開発し、それを政府が上手く利用した。決して政府主導(押し付け)ではないという。

 

 世界の行き詰まりを打破する東洋思想とその実践、理解はしましたが僕自身は「Global & Digital」を諦めはしませんよ。

 

*1:この言葉は世田谷区の保坂区長も提唱している。

市民運動出身の首長 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)