1994年発表の本書は、スー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第11作。警官よりも私立探偵が性に合っているという西海岸の女探偵キンジーは、何度も危険な目に遭い、自宅も愛車もオフィスも失いながら「時給50ドル+経費」の探偵業を辞めようとはしない。今回は1年程前に娘を死なせたという婦人の依頼で、死んだローナのことを調査し始める。
ローナは3人姉妹の末娘、まだ25歳と若く美しい娘だった。パートタイムで水道局の仕事をして、JDという男の離れ屋を借りて住んでいた。しかし昨年の5月、連絡が取れなくなり、2週間後に腐乱死体となって発見された。
内臓も脳も溶けてしまい、歯型でようやく身元が分かったくらいで、死因も分からない。警察は本腰を入れた捜査をしなかったが、母親はローナには闇の部分があり、その関係で誰かに殺されたという。その証拠にと母親がみせてくれたのが、ローナが出演していたポルノビデオ。
キンジーは、ローナがパートタイマーとしては考えられない50万ドル以上の預金と、高価な装身具などを持っていることを知る。それは、彼女の夜の顔が高級娼婦だったことから得られた収入だった。キンジーの捜査はポルノビデオを撮影、販売する組織や、ローナの客だった実業家や社会的に名のある人物に及ぶ。最初は口が堅かったローナの仲間の売春婦ダニエルも、キンジーを信じて事件の背景を話し始めるのだが・・・。
年の離れた夫の浮気を疑って盗聴器を仕掛ける妊婦、普段は女装して暮らしているぽるの男優、高齢で心臓病のあるのに変態趣味の実業家など、倫理に外れた人物が登場し、キンジーの捜査に「華」を添える。
解説は、ハメットの探偵が「夢想の男」と自称していたことを引用し、キンジーを「夢想の女」と紹介している。正統的なハードボイルド探偵と言う意味だろう。「以上報告します」という決め台詞、まだ続けて読めるのが楽しみです。