新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

レンジャー部隊バン・ショウ軍曹登場

 2015年発表の本書は、シアトル生まれのグレン・エリック・ハミルトンのデビュー作。アンソニー賞ほか3つの最優秀新人賞を獲得した作品で、書評では「初球ホームランだ」などの賛辞が目立つ。確かに500ページほどの長さを感じさせない、スピーディな展開と工夫された構成である。

 

 主人公は18歳で陸軍に入隊、10年間にアフガニスタンなどを転戦したレンジャー部隊の軍曹バン・ショウ。2度目の負傷をしてドイツで手術後の療養をしていたところに、10年前に喧嘩別れした祖父のドノから手紙が届いた。「帰ってきてほしい、できるなら」とある。実は祖父は筋金入りの犯罪者。バンは9歳のころから祖父に育てられたので、泥棒の手口(カギの開け方、モノの隠し方、盗品の始末等)を叩きこまれている。

 

 14歳の頃から実地に自動車泥棒や関税倉庫からの窃盗などで経験を積んだのだが、18歳の時に祖父の教えに背いて喧嘩になっていた。そんな祖父がいかにも弱気な手紙を送ってきたことから、バンは直ぐに休暇を申請して帰国した。しかし祖父の家を訪ねると、祖父は小口径の拳銃で頭部を撃たれて人事不省。病院に担ぎ込んだが、意識が戻らない。

 

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 シアトル市警は捜査を開始するのだが、ドノが多くの前科を持っていることからあまり力が入らない。バンは残された休暇期間に、自ら祖父を撃った犯人を捜しだそうとする。警察も気付かなかった隠し場所から、ドノが使っていた偽造運転免許証や身分証明書を取り出し、ドノが最近何をしていたかバンは調べ始める。それにはドノの仲間たち(表の酒場共同経営者や裏の泥棒仲間)も協力してくれる。

 

 歴戦のレンジャー下士官なのだがスーパーマンすぎないバンは、酔って不意を突かれて倒されたりする。このあたりがリアルだ。泥棒の目と兵士の目を持っている彼は、ドノの家から巧みに隠蔽された盗聴器を見つけ、仕掛けた人物を追い詰めていく。

 

 ドノを撃った犯人探しのストーリー中に、9~18歳のバンがドノに泥棒として鍛えられていくプロセスが挿入されている。これが、作品に膨らみを持たせ、特殊な祖父と孫の関係を際立たせる。現代のスマートな泥棒の世界を、詳しく紹介してもくれる。

 

 この作者、なかなかの実力を持っています。続編もあるようなので、探してみましょう。