新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本の航空ミステリー

 空港や航空機内、あるいは航空業界に携わる人たちの日常を描いたミステリーは航空ミステリーと呼ばれる。アーサー・ヘイリー大空港」のような巨編もあれば、トニー・ケンリック「スカイ・ジャック」というハイジャックものも海外では多い。さらにルシアン・ネイハム「シャドー81」やデイル・ブラウンの諸作のように軍事的色彩を強めているものもある。

 

 日本では、このようなジャンルの作品は多くない。専門に描く作家が少ないせいだろうが、1979年発表の本書の作者福本和也は、日本の航空ミステリーの草分け的存在である。太平洋戦争前に空に憧れ甲種予科練を志願するも、飛行訓練中に終戦を迎える。作家デビューしてからも日大理工学部で教官を務める「空の男」だ。

 

 本書も、社会問題となりながらようやく開業した東京国際(成田)空港を舞台に、地上係員も含めた空の男女たちが大勢登場する。

 

 厳重警戒中の成田空港だが、ゲリラと思しき襲撃が相次ぐ。小型機が火炎瓶や鉄ビシを滑走路にまき散らし、トイレでは爆発騒ぎ。そんな中、因縁や思惑を持った人たちが乗る極東航空807便香港行きが、1時間以上遅れて飛び立った。

 

        

 

 機長の峰山は傲慢な男、教官として多くのパイロット候補生をいじめてきた。副操縦士の矢代は、峰山に遺恨を持つひとり。アクシデントで登場できなかった同輩の代わりに、この機に乗ることになった。ファーストクラスには、暴言を吐いて非難を浴びている通産大臣とそのSPが3人。放蕩三昧で大金を持った、信用組合の若い理事長もいる。

 

 エコノミークラスには、落ちぶれて妻子に自らの保険金を贈る以外にしてやれることが無くなった元土木技師がいた。彼は手製の小型爆弾を持ち込み、洋上で爆発させるつもりでいる。さらにシャブ中で暗殺が得意のヤクザ者が、香港での殺しを依頼されて乗っていた。

 

 複雑な関係を持つ彼らを乗せた807便が日本の領空を離れたころ、過激派をなのるハイジャック文書が見つかった。高度300m以下になると爆発するアレノイド爆弾を仕掛けたという。さらに機内では2人の死者が出て、大混乱に陥る。成田闘争サラ金問題、麻薬汚染、パイロット養成機関での闇・・・数々の社会問題を背景に、残り燃料が減っていく中での航空関係者や捜査機関の苦闘が描かれる。

 

 かつてもあまり読んだことのない作者の作品、本当に久しぶりでしたが、今も滅多に見かけませんね。