新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

若人への「住み方改革」提案

 2020年発表の本書は、ボストンコンサルから三井不動産に移った牧野知弘氏の不動産業界情報。人口減少、都市への人口集中、空き家の増加、タワマンブーム、老朽マンション問題などを取り上げ、これからの人生で不動産とどう付き合うべきかを示してくれる書だ。ただ表題にあるように「日本のこれから」が分かるわけではない。せいぜい「人生のこれから」くらいだと思う。

 

 筆者がモデルとして取り上げているのは、

 

・30~40歳くらい、地方出身で都市部に住居を構えようとするか構えている層

世帯年収は1,000万円を優に越える

・地方の実家には両親が住む家(一般に一戸建て)がある

 

 という人たち。彼らを将来苦しめることになる罠としては、

 

都心部タワマン購入で、大きすぎるローンを抱える

・マンション内のコミュニティ形成に失敗し、住みづらくなる

・子供の教育(特に高等教育)に有利な場所への転居を考える

・老親の亡くなった後の実家処分

 

        

 

 のようなものが考えられるという。都会での生活は拠点を固定しづらいので、地方で両親が持ち家していたからといって、自分たちも持ち家しなくてはならないと考えるのはNGだということ。不動産は負動産になり、究極は腐動産と化すこともあるからだ。「働き方改革」は「住み方改革」も伴わないと、自分の首を絞めることになる。

 

 一方不動産業者の将来も、厳しいものがあると筆者は言う。バブル期は論外としても人口増の時代には、不動産不足なので「算数も英語も出来ない」社員でも体力と気合で仕事になった。土地ころがしをし、建蔽率緩和をしてもらえれば良かったから。しかし停滞期になると不動産は金融商品の一種になり、それなりの知力がないとクビになった。それがIoTやAIといったハイテクで、金融知識程度では取り残されるようになるという。

 

 総じて、日本の制度では所有者の私権が強すぎる。これを制限しないと、有効な土地利用から社会の安定、ひいては安全保障まで脅かされるというのが主張でした。では(政策として)どうすべきかが書いてあると思ったのですが、残念。