新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スパイものに回帰した女王

 ミステリーの女王アガサ・クリスティは、本当はスパイものが大好き。デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」でもその傾向があるし、トミー&タペンスが登場する4作は明るいスパイものの典型だった。1970年発表の本書は、ポワロもマープルも登場しないノンシリーズのスパイものである。

 

 血筋もよく優秀なのだが皮肉さが災いして出世していない外交官スタフォード・ナイが、フランクフルト空港で奇妙な依頼をされることから本書は始まる。スタフォードの死んだ妹によく似たその女は、彼のパスポートとコートで彼になりすまし英国へ入国したいと言う。いたずら心からそれを引き受けた彼は、帰国後尾行されたり奇妙な手紙が届くようになる。

 

        

 

 実は彼女は世界的な調査機関の一員、大陸系の貴族名や英国名を複数持つ美人スパイである。ひょんなことから彼女の調査機関に協力することになったスタフォードは、ドイツにある古い城にゼルコウスキ伯爵夫人と名乗る彼女と乗り込むことになる。

 

 世界中で頻発する若者のデモや暴動、反政府活動。あるいは何者かによるハイジャックなどのテロ。これらの背後にネオナチのような秘密結社があるらしい。膨大な資金を持つ女貴族、破壊的な兵器を開発した科学者、麻薬組織を牛耳る男、武器の裏マーケットを支配する男、暗号名しか分からない「最も危険な女」の5人が組織の中核。

 

 スタフォードは冒険好きのマチルド伯母の助けも借りて、その組織に挑んでいく。正直ひとりの外交官が挑める相手ではないのだが、そこは割合都合よく物語が進む。そして、ついに明かされる組織の秘密とは?

 

 事実上女王最後の作品になった「運命の裏木戸」は、以前紹介しています。女王は大好きなスパイものとトミー&タペンスものを締めくくって亡くなりました。

 

ベレスフォード夫妻、最後の挨拶 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)