新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

数ある中で最強のワトソン

 このところ毎月、1910~20年代の長編ミステリーが確立した時代の傑作を紹介している。今月は1921年の作品「赤い館の秘密」。かつて本格探偵小説ベスト10といえば、間違いなく選ばれていた作品である。作者のA・A・ミルンは、「くまのプーさん」で知られた童話作家だが、ミステリーが大好きでこの1冊だけを満を持して発表した。

 

 作者は探偵小説の条件を、下記のように考えていた。

 

1)まず分かりやすい、はっきりした言葉で書く

2)ロマンスの要素は必要ない

3)探偵は素人に限る。一般人にない特殊能力を持っていてはいけない

4)探偵の考えていることは、都度読者にも知らせるべきだ

5)ワトソン役は必要、馬鹿ではだめで、名探偵に比べれば明晰ではないが好人物であるべき

 

 科学捜査で読者をケムにまいたり、手掛かりを読者から隠したり、考えを知らせないような探偵はアンフェアだと言いたげである。

 

        

 

 そこで登場したのが、人間観察を続けている青年ギリンガムと、その友人ベヴァリーのコンビ。ロンドンから列車で2時間ほどの田舎町、富豪マーク・アブレットが住む「赤い館」には、複数の滞在客がいた。そのうちの一人ベヴァリーをギリンガムが訪ねていくと、15年ぶりにオーストラリアからマークの兄ロバートが帰国したところだった。

 

 ロバートは以前から嫌われ者、今回もカネをせびりに来たとマークが応対するうちに銃声がして部屋はカギがかけられてしまっている。マークの従兄弟で秘書役のケリーと、偶然居合わせたギリンガムが庭の側のフランス窓を破って入ると、ロバートが射殺されており、銃もマークも消えていた。

 

 300ページ中の半分ほどが、ギリンガムとベヴァリーの会話。何度も事件の謎について議論を戦わせ、ギリンガムはベヴァリーを「数あるワトソンの中でも最強だ」と褒める。確かにベヴァリーも十分なインテリジェンスを示す。

 

 50年ぶりに読んだ古典、謎解きは覚えていましたが、十二分に楽しめました。