新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

鉄道記念日(10/14)の殺人

 本書は以前「Wの悲劇」を紹介した、夏樹静子の社会派ミステリー。1992年の発表だが、時代設定は1987年10月からになっている。冒頭被害者の家庭内で交わされる会話などに、当時の流行TV番組だったりタレント同士の結婚話が出てくる。事件の背景となっているのは「手抜き工事」、たしかにそのころマンションなどで建築偽装が発覚する事件が相次いでいた。

 

 鉄道記念日(10/14)、いつも判で押したように東京駅1647発の沼津行きで帰宅する夫が帰ってこないと、家族が行方不明の届け出を出した。いなくなったのはゼネコン<帝都建設>の役員である、曽根という土木技術者。帝大卒が幅を利かせる中で、私大卒ながら元副社長の娘を妻にしたおかげで60歳で役員に名を連ねていた。

 

 2日後、曽根の絞殺死体が東京駅地下の、普段は使われていない「霊安室」で見つかった。この部屋は飛び込み自殺などがあった時、その死体(マグロと業界ではいう)を一時保管するところだ。

 

        

 

 さらに2週間後、銀座のクラブのホステスが<東京ステーションホテル>の非常階段で絞殺されていた。手口が同じだったので捜査陣は「東京駅連続殺人事件」として2人の被害者の身元を探るが、接点が出てこない。

 

 そしてついに3人目の犠牲者が出た。国鉄OBで55歳で関連会社に移り、今は引退していた合間という男。彼も判で押したように東京駅構内の理髪店を利用する男だったが、東京駅の丸の内と八重洲を結ぶ連絡通路のひとつ「車椅子通路」で殺された。今はすっかり改装されて多くのショップが開業している東京駅の地下、昭和の時点では国鉄~JR関係者しか使わないエリアが一杯あったらしい。このあたり、1987年に出版された「東京駅探検」(新潮社)に、多くの写真とともに紹介されていると解説にある。

 

 ホステスとの関係は不明のままだが、曽根と合間には接点があった。1963年当時、東海道新幹線東京駅の工事を曽根が現場工事者として指揮しており、国鉄側の担当者が合間だった。そこで手抜き工事が発覚し、曽根と現場所長の高辻が更迭されていたのだ。曽根はしばらく地方でほとぼりを冷まして本社に復帰できたが、帝大卒エリートだった高辻は関連会社に出され、そこも追われていた。

 

 作者らしく、サラリーマン社会の悲哀を背景にした連続殺人事件でした。夏樹作品はもっと探してみます。