新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

300ページに7つの事件

 1976年発表の本書は、斎藤栄のノンシリーズ。以前紹介した「Nの悲劇」から4年経って、年間10冊ほどの長編を発表するようになっていた。S・S・ヴァン・ダインは「一人の作家に半ダース以上のミステリーのアイデアはない」と言って、多作を戒めていた。本人も結局12作を発表するのだが、後半は力の衰えは明らかになった。

 

 海外では多作家と言われる人たちも、100冊を越える人は珍しい。対して日本作家は600冊を越える西村京太郎はじめ、膨大な量の執筆をしている。作者の年間10作というのも、非常に多い数字である。

 

 このころ「消えた・・・」という題名は一つのブームだった。1975年に西村京太郎が「消えたタンカー」を発表、翌年に「消えた巨人軍」「消えた乗組員」が出ている。それに触発されたのか、本書は「巨人機が消えた」である。巨人機=B-747ジャンボジェットのことで、ちょうどDC-9から切り替えの時期にあたる。作者が何度も旅行した香港路線にも、B-747が就航していた。

 

        

 

 元日本軍パイロットで今は民間航空会社の機長を努める桐山は55歳、そろそろ定年も近い。香港からのフライトを終えた彼は、特別休暇を貰って1週間箱根の旅館に滞在していた。妻の富士子とはソリが合わず、今回も一人旅。そこに娘の美雪が恋人の内科医南雲を連れてやってきた。2人の仲を富士子が認めず、桐山も同意しないので2人は婚約できていない。業を煮やした美雪が、渋る南雲を引っ張って「決着」をつけようとしたのだ。

 

 しかし、2人が到着する直前に旅館の敷地で桐山が血を流して倒れているのを、従業員が見つけた。彼は苦しい息の下で「ジャンボが消えた」と言って意識を失った。ところが急な知らせを受けて警察が駆け付けると、桐山の姿がない。しかし残された大量の血痕を見て、南雲は「この出血では生きていられない」とつぶやく。桐山の行方を独自に追う美雪たちだが、桐山の副操縦士フライトエンジニアが次々に殺されてゆく。

 

 300ページ足らずの中に、香港まで行って暴漢に襲われた美雪の事件も含めて7つの殺人・傷害事件が起きる。中にはジャンボ機の中で正体不明の男が殺されたケースも。機内という密室での凶器のトリックは面白かったです。しかしいくらなんでも、桐山家関係者の面前で事件が起こりすぎと思います。スピーディとは違う安直なサスペンス手法ではないでしょうか。