新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

溺れるほど好きな人もいる短篇集

 本書は、ファンタジー作家(と言ってもいいよね)レイ・ブッラドベリの短編集。作者の長編は以前「火星年代記」と「何かが道をやってくる」を紹介しているが、前者はSF、後者はファンタジーだ。デビュー時のSF色が、時代を経てファンタジーになっているような気がする。

 

 本書に収められているのは、1948~69年に発表された長さも作風もまちまちな8編。「救世主アポロ」に至っては小説ですらなく、クリスマスに詠まれる詩といえる。表題作「歌おう、感電するほどの喜びを!」は、田舎町で母親を亡くしたトム(13歳)と2人の弟妹が、ファントチーニ社から贈られたロボット「おばあさん」と交流する話。ミイラの棺に入って送られてきたロボットは、会う人ごとに表情(というより形状)を変えることもできるし、家事全般なんでもこなす。

 

        

 

 カタログによると、60以上の言語に対応しその切り替えは1秒もかからない。トムたちの名前も直ぐに覚え、その好みや行動を把握してかゆいところに手の届くサービスを行う。3人が大人になると「必要になれば来る」と言い残して去ったロボットを、70歳を過ぎて誰かに頼りたくなった3人が懐かしむシーンで終わる。

 

 「火星の失われた都」は、なんでも願いが叶うという伝説の古代都市の物語。人生に限界を覚えている、出番の減った俳優、若さを取り戻したい美女、大きな獲物を欲しがる狩猟家らが、火星の運河を航行するクルーズ船で伝説の都市を目指す。

 

 解説を漫画家の萩尾望都氏が書いていて「溺れるほど好き」なブラッドベリファンだという。20歳の時にふと手に取った「十月は黄昏の国」以降、恋をしてしまったようなものらしい。僕にはどうにも理解できない(クリスチャンではないせいか・・・)ことも多いのですが、ハマる人はハマるというのは理解できます。