新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

男女7人殺人物語

 本書は「本格の鬼」鮎川哲也が、1950年代に発表したもの。「年代」という言葉を使ったのは、本書が一度は違うペンネームとタイトルで連載されたものなのに、その後鮎川哲也名義で現在のタイトルで再び別の雑誌に連載され、後に単行本化されたからだ。

 

 複雑な出版事情はさておくとして、本書は青春群像のような書き出しで始まる珍しい作品である。大学が保有する秩父の山荘にやってきたのは、その大学の美術・音楽科の生徒7人。生徒とはいえすでに23歳を越えているものも何人かいて、それぞれ非常に個性的だ。スカートに絵具を付けても気にしない醜女もいれば、オペラで何度も主役を張ったイケメンもいる。何にでも首を突っ込みはやし立てる女もいれば、身なりを構わぬ弱気な男もいる。

 

 そんな7人の中には、長く付き合っているカップルも2組いて、その中の一組は山荘に着いた翌日婚約披露をする。ところが、その昼に最初の事件が起きた。炭焼きの男がひとり崖下で死体となって見つかり、そばに7人の一人の女のレインコートが落ちていたことから彼女と間違って突き落とされた可能性も疑われる。しかも死体のそばにはスペードのAの札が・・・。

 

        f:id:nicky-akira:20201009200039j:plain

 

 このあと、7人や山荘の管理人などがひとりまたひとりと殺されて、死体の脇には2、3、4・・・とスペードの札が置いてあった。地元警察は7人のうちで疑わしいと思われた男を逮捕するのだが、東京からやってきた素人探偵は容疑者を山荘に連れて来てくれれば真犯人を名指しするという。

 

 迷った警察がその話に乗ろうと決めた時、素人探偵も殺されてしまった。そしてさらに殺戮は続き、逮捕した容疑者の潔白が証明されてしまう。困った地元警察は、警視庁に相談し実績ある「名探偵」を派遣してもらうことにした。

 

 400ページ中320ページを過ぎて登場するのが星影竜三、作者のデビュー作「ペトロフ事件」では鬼貫警部の陰に隠れる存在だったのだが、本書を始め何作かで主役を張っている。彼は2~3日の調査で真実を暴くのだが・・・。

 

 50余ページに渡る解決篇は、何しろ死者が半ダースを越えていることから延々と真相が暴かれ続ける。各事件に少なくとも一つのトリックがあり、造り物と分かっていてもトリックの連打に感服してしまう。あまり多くの死体を登場させると始末に困るはずですが、そこは鮎川先生、綺麗にまとめておられました。なかなかの秀作と思います。