新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本の「Civilian Control」

 2023年発表の本書は、眼光鋭い元海将香田洋二氏の「防衛省に対する喝!」である。一度パネルディスカッションでご一緒したことはあるが、著書を紹介するのは初めて。集団的自衛権行使が可能になり、防衛予算も欧州各国並みのGDP比2%への道筋は付いたものの、まだ闘える自衛隊になるには課題が残る。その最たるものが、内局である防衛省無為無策というのが主張ポイント。

 

 筆者は制服組で、海上自衛隊TOPの艦隊司令長官を務めているが、防衛省(背広組)は現場のことが何も分かっていないとある。背広組のKPIは、防衛計画の大綱をいかに守るかになっていて、国を守るにはどうすればいいかはなおざりだとある。防衛力というのは、正面装備・後方(兵站等)・教育訓練の3本がそろっていないといけないが、どうしても正面装備偏重になる。それは、大綱に添付されている別表に、

 

・兵員○○名

護衛艦〇隻、作戦機〇機

 

 などと正面装備の数値が書いてあって、GDP比1%の縛りの中で別表の数値を守るためにその他の項目、例えば弾薬を削ることになるのだ。

 

        

 

 もちろん現場(制服組)はこれに反発するが、背広組に押し切られてしまう。背広組は自衛隊が闘うことになるとは思っていないし、政治家の多くも背広組と同じ意見を持っている。民主党政権では、自らが自衛隊の最高指揮官だったことを知らなかった総理もいた。筆者によれば、日本の軍隊の統制は「文民統制:Civilian Control」ではなく、官僚による「文官統制」である。

 

 日本の防衛力については、無理な兵器の改装、国産への妙なこだわり、憲法に明記されていないゆえの制限など諸課題があるが、まずは内局の官房長級は制服組を据えることから始めるべしとも読める。

 

 まさに「喝!」の内容で、多くはうなずけることですが、内局だけでなく多くの政治家も軍事の知識を持って。この問いかけへの答えを「文民」たる市民に説明してほしいと思いますよ。