新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

兵士は方法論で考える

 2001年発表の本書は、以前「テロ資金根絶作戦」などを紹介したSAS出身の匿名作家クリス・ライアンの軍事スリラー。作者は1984~94年の間、SAS正規連帯に所属し湾岸戦争などい従軍した。恐らくは下士官だったと思われる。レジメントと呼ばれるSASの兵士は、極めて厳しい選抜とたゆまぬ訓練を経て、驚くべき作戦・戦闘能力を持つという。

 

 作者の描くヒーローの多くは、SAS下士官かそのOB。本書の主人公アレックス・テンプル大尉も、SASの士官だが下士官上がりの叩き上げである。優秀な成績を上げて士官学校に入り卒業したことで、故郷では「パブリックスクール出の連中と肩を並べたな」とほめそやされている。英国に厳然と残る、格差のゆえである。

 

        

 

 シエラネバダでゲリラに拉致された報道班救助にあたっていたテンプル大尉は、急遽ロンドンに呼び戻される。MI5のフェンウィック副長官から与えられた極秘任務は、IRA内部に送り込んでいた情報員「ウォッチマン」ことミーアンの殺害。

 

 ミーアンもSAS隊員で、MI5が数年間かけて選抜し、訓練し、不名誉除隊させてIRAに潜り込ませた。貴重な情報をもたらしていたが、しばらく前から情報の精度が落ち、ついにMI5を裏切って自分を送り込んだMI5要員を残虐な方法で殺し続けているのだ。次に狙われるであろう副長官にテンプルは「彼と同じように考え、どう対象に迫るかは分かるから探し出すことはできるだろう。しかし殺せるかどうかは分からない」という。

 

 それでも「君しかいない」と言われて、MI5の女捜査官と共にミーアンを追うテンプルだが、ミーアンは厳重に守られたMI5要員も殺害した。テンプルは「(彼や俺のような)兵士は方法論で考える」と、捜査官にミーアンの手法を説明する。

 

 最後の鮮やかなどんでん返しまで、息もつかせぬ500ページ弱でした。SASや諜報員の選抜・訓練の過酷さや、事件の残虐さが強烈な味付けとなった傑作だと思います。