新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

矜持ある軍人の孤独な闘い

 先日、プリンス・マルコがベルリンの壁を越えるという活躍をした「チェックポイント・チャーリー」を紹介したが、それは1973年の発表。それから10年近くたって、ギャビン・ライアルが本書を発表した。「影の護衛」に続くマクシム少佐シリーズの第二作で、これも「ドイツが2つあったころ」の物語である。


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 SASの優秀な将校だったマクシム少佐は、士官学校等出世に必要なキャリアを持たないため、昇進のめどもなく無聊を囲っていたところをスカウトされ、首相直下内閣官房の安全保障担当になる。簡単に言えばガードマンである。
 
 彼はハービンガー首相補佐官らと、首相の安全や官房全体の治安維持などに責務を負った日々を送っている。そんな彼のところに、SAS時代の部下で負傷退役したカズウェル元軍曹から救援依頼が来る。カズウェルの元部下であるドイツ駐留部隊の現役兵ブラッグ伍長が、民間人を射殺し脱走してイギリスに逃げ帰ってきたという。
 
 ブラッグ伍長は、東ドイツの体制幹部アイズマルク書記局員を巡るMI6(対外諜報部)のオペレーションに巻き込まれたらしい。軍人の行動様式は身に染みているし、諜報機関のやり口にも多少の知識を得たマクシム少佐は、ブラッグ伍長を厳しく諭しながらも事件の背景を探って伍長の罪を消せないか奔走する。当時の軍隊はまさに「男の世界」で、ライアルの諸作品は「男の矜持」を描くことに特徴がある。日本で言えば、(ちょっと申し訳ないが)「仁義の世界」である。
 
 アイズマルク夫人は、ドイツの敗戦間際事故で他の多くの犠牲者と共に死んだことになっている。アイズマルクはその後再婚したのをきっかけに姻戚関係に拠って現在の地位を確保しているが、ひょっとして前夫人が生きていれば(重婚で現夫人との婚姻は無効)その地位が怪しくなる。MI6はその辺りを突いて、アイズマルクを失脚させようとしているのかもしれない。
 
 マクシム少佐は東ドイツと西ドイツにまたがる陰謀の中で、ブラッグ伍長を守るための単独捜査を続ける。少佐自身ドイツ駐在経験もあるのだが、久しく使っていなかったドイツ語を上手く聞き取れず苦労している。終戦前後東西ドイツの境の村で起きた悲劇を背景に、少佐は真相を暴く。最後の30ページで、陰謀を企てた組織に対して、片腕の効かない元軍曹と胸に銃撃を受けて回復途中の伍長の2人だけを指揮してマクシム少佐は戦いを挑む。
 
 MI5(防諜部門)もMI6も信用できない中、友人であるバービンガー補佐官にも少佐は全てを話しません。最後も軍人だけで決着を付けようとします。少佐の軍人としての矜持は、見事なものでした。それを感じさせてくれるライアルの筆力も凄いです。