新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒトはどこまで行けるか

 2021年発表の本書は、大野和基氏が世界の知性にインタビューするPHP新書の一冊。本書のテーマは「ヒトを進化させる科学」である。8人の科学者が登場し、人類の未来を(ポジティブに)語る。

 

 冒頭の化学者ダウドナ教授は、<クリスパー・キャス9>という非常に安価で出来るゲノム編集技術でノーベル賞を受賞した。これにより容姿や能力を自由に設定できる<デザイナーズ・ベビー>が実現可能になる。教授は、政府による規制は無意味だとも語っている。新技術を政府関係者が理解するのが難しい上に、理解を越える速度で進歩するからだ。

 

 医学者シンクレア教授は、老化は体内のデータ消失によって起きるので、データを復活させる再プログラミングで、若返ることができるという。すでに高齢のマウスの網膜をリセットすることで、視力を取り戻させることには成功している。この技術課確立されればヒトの寿命は定まらず、理論上は200歳も可能だ。

 

       

 

 物理学者ランドール教授は、世界が原子でできているという学説は正しくないかもしれないという。原子に拠らない物質が集まった<ダークマター>は、目に見えないが存在の可能性がある。

 

 同じく物理学者リース教授は、脳そのものをデータコピーすれば不老不死が実現できるという。ただそれが「本当に貴方か?」という質問には、答えるのが難しい。教授は<デザイナーズ・ベビー>やAI兵器についての危惧も語りながら、来たるべき戦争は、始まればほんの数分で終わるとも予言する。あまりにも強力な破壊力ある兵器が投入され、寸刻の迷いもなく攻撃を実施するからだ。

 

 貫かれているのは、科学技術は善でも悪でもなく、使う人によってその判定が異なるということ。人生200年を可能とすることも、脳をデータ化して不老不死を実現することも、そのこと自体に是非はない。

 

 さて、ヒトという種族はどこまで行けるのでしょうかね?