1990年発表の本書は、自身英語教師でもあるW・エドワード・ブレインのデビュー作。作者は、写真を見ると「サンダーバード」の科学者ブレインズを思わせる風貌である。「寄宿舎という閉鎖空間での事件、青年たちの姿が鮮明」との評価があるが、他の作品については情報がない。舞台となっているのはバージニア州にあるモンペリエ校。6年制の男子校で古い歴史地区にあり、豊かな自然の中で学生全員が寄宿舎生活を送っている。実際首都にも近いバージニア州に、モンペリエ(うーん、フランス風)歴史地区というものがある。
登場人物の多くは16歳前後の男子学生。日本と違うのは、運転免許を持っていて夜、街に繰り出したりする「全寮制」の実態。お酒はもちろん、男女交友もかなり進んでいる。何しろ人気授業が「生物」で、それは動物を通じて性行為の勉強ができるから。学校自体にキリスト教の影響は大きく、性行為も「神が認めた崇高なもの」と教えられている。一方で教師夫妻の寝室をのぞいたり、男同士の行為にふける青年たちの「情熱」も止められない。
通常の学業以上に推奨されるのが、課外活動。主人公の学生トマスは、バスケットボール部に所属しているが担当教師から演劇もするよう勧め(求め・・・かな)られている。トマスは対外試合でフリースローやパスを決められず、演劇の方でも「オセロ」の中で振られた役割に納得できない。スポーツはともかく、本書の最初から最後まで(学芸会にも見える)オセロの上演に学校ぐるみで尽力する姿は興味ふかい。
そんな平和な日々を打ち砕いたのが、レスリング選手が首を折られて殺された事件。ニューヨークの場末の劇場で殺された男娼の手口と同じで、校内に殺人鬼がいるのではとの緊張が走る。その後も犠牲者は出るのだが、紙幅の多くは学生と教師の日常に費やされる。女子校とのパーティやトマスの淡い恋の影で、「危険な情熱」をもった殺人者が次の犠牲者を求めて動き回っていた。原題の「Passion Play」はこの意味だろう。
500ページもの大作で、サスペンスでも純粋な本格ミステリでもない印象。この時代でも名門校だと黒人学生は一握りなのだな・・・など、違った興味を持たせてくれた作品でした。