新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

イスラエル建国前史、WWⅠ

 1988年発表の本書は、これまで「過去からの狙撃者」「パンドラ抹殺文書」など出色のスパイスリラーを紹介してきた、マイケル・バー=ゾウハーの歴史スパイもの。WWⅠ当時、パレスチナを含むアラビア半島全域はオスマン・トルコ帝国支配だった。パレスチナには多くのアラブ人と一握りのユダヤ人がいたが、いがみ合っていたわけではない。共にトルコの圧政と戦っていた。

 

 WWⅠも終わりに近づき、枢軸側の劣勢が見えてきた。トルコもエジプトからの英連邦軍の攻撃を支えきれず、シナイ半島から撤退してガザ~ベールシェバのラインで踏みとどまっている状態。シナイ半島を失った原因は、ユダヤ系の諜報組織(史実ではNILI)が防衛計画を探って英側に渡したから。

 

        

 

 トルコの司令官ムラドは苦境にあったが、ドイツの大物スパイであるトラウプ伯爵の助けでユダヤ系組織を一網打尽にする。組織のTOPであるルースは父親とともに捕らえられ、弟は殺されてしまう。死を覚悟した彼女だったが、父親の命を助けたければスパイとしてカイロに潜入せよとの伯爵の指示を、やむなく受け入れる。

 

 一方英連邦側も一枚岩ではない。ルースの恋人でユダヤ系ロシア人のサウルらは、英国軍にエルサレム占領作戦をさせようとする。一方英情報部のロレンス少佐はベドウィンを味方につけ、アラブ人の手でエルサレムを解放しようと考えている。ロレンスは、ベドウィンを指揮してムラドの軍隊を破り、アカバ港を手に入れる武勲も立てた。

 

 キリスト教徒がエルサレムを解放すれば、将来ユダヤ国家を建設する機会はある。しかしアラブ人にそれをやられたら、エルサレムは戻ってこない。サウルはロレンスの案をなんとか潰そうとし、同時にトルコが放った女スパイを追うことにする。彼はルース一家は皆殺しに遭ったと思っていて、ルースの仇と思ってルース自身を捕まえようとするのだ。英軍とベドウィン、どちらが主攻で陽動か?虚々実々の諜報戦が展開される。

 

 マタ・ハリレーニンなどは実名で登場。仮名(例:ルース・メンデルソンは実在のNILIのTOPサラ・アーロンソン)で登場の人物も多く、どこまでが史実かはわからない。しかし、イスラエル建国の前に、このような物語があった/あり得たことは、大変勉強になりました。