2021年発表の本書は、中国の新疆ウイグルにおけるウイグル族弾圧に関する考察。社会学者橋爪大三郎教授と、イスラム学者中田考氏の対談で構成されている。ウイグル族弾圧について欧米の報道はいくつもあり、強制連行・抑圧・暴力・文化的破壊・漢民族化・レイプや断種処置などが大規模で組織的に行われていると伝えられる。
中国:国内問題であって、内政干渉は許さない。犯罪者を取り締まっているだけだ。
欧米:人権問題であって、事実上の「ジェノサイド」だ。
と対立したまま。中国という大きすぎる存在に対して、国際社会は有効な手を打てていない。しかし僕も不思議だったのは、漢民族がかくもひどいことをイスラム民族に行っているのに、他のイスラム国や民族が強力な対抗措置を採っていない、事実上沈黙していることだ。すぐに「○○に死を!」と叫ぶ彼らなら、「習大人に死を!」といってもおかしくないだろうに。
まず橋爪教授によれば、
・中国共産党は任意団体、憲法含め法的規定はなく、法に縛られない
・共産党と名乗っているが、マルクス・レーニン主義ではない
・なぜ中国を統治しているかというと、共産党が正しいから
なのだそうだ。共産党が宗教排除のテーゼだからイスラムいじめをしているのではなく、正しいこととしてウイグル族を「再教育」しているのだとある。ヒトラーがユダヤ人を殺したのとは、レベルが違うらしい。
次に中田氏によれば、
・イスラム世界の大問題はパレスチナ問題、ウイグル問題への関心は低い
・中央アジアのイスラム勢力は、かつてソ連にひどい支配を受け、支配慣れしている
・正統的なイスラム教徒を「ムスリム」というが、もうほとんど存在していない
・迫害された「ムスリム」はダール=アリ・イスラーム(イスラム圏)に住むべきだが、もうどこにもそれが存在しない
状況になってしまっている。トルコから新疆にいたるチュルク族の復活は、望めないとの意見だ。
新疆ウイグルはやむを得ないとして、もし中田氏の言うようにイスラム教徒が団結力を失っているとしたら、アラブはともかく旧ソ連の「~スタン国」はロシア弱体後どうなるのでしょうか?ちょっと不安。