1960年発表の本書は、カリフォルニア在住の作家・演出家シオドー・マシスン(*1)の短編集。収められた10編の短編は「歴史上名を残した人物が、一生に一度名探偵役を演じる」というテーマで<EQMM誌>に連載されたもの。作者がこの企画を持ち込んだ時、エラリー・クイーンは躍り上がって喜んだと解説にある。
巻頭作では、アレクサンダー大王が死の間際に、自分を暗殺しようとした「Who done it?」の謎に挑む。50年以上前に読んだものだが、急転直下の鮮やかな解決は、覚えていた。以下、
◇ウマル・ハイヤーム
◇エルナンド・コルテス
◇ドン・ミゲール・デ・セルヴァンテス
◇クック船長
◇ダニエル・ブーン
◇スタンレー&リヴィングストン
が登場する。欧米の偉人がほとんどで女性も1人しかいないのは、致し方ないのかもしれない。政治家や軍人だけでなく、作家も2人入っているのが作者の好みだろう。
11世紀セルジュク朝ペルシアの学者ウマル・ハイヤームは、密室である塔の先端から墜死した謎に、ダ・ヴィンチも誰も付近にいなかったのに刺殺された貴族の死という「不可能犯罪」に挑む。クック船長は航海中、酔っぱらった船員が殺害された件で、3名の容疑者を前にする。ちょっとした歴史の裏面のようなものも、垣間見える。例えば、ダニエル・デフォーが「ロンビンソン・クルーソー」を書くきっかけになったのも、ある事件からだと思わせる。また、スタンレーがコンゴの奥地でリヴィングストン博士を見つけてからのエピソードも・・・。
「Who Done it?」もからめて、先住民との闘い、蛮族の襲撃、などアクションも相応にある。このような企画は、10作で終わらせるのは惜しかったように思います。歴史の教科書、せめて副読本くらいにはなったと思うのですが。
*1:本業はカレッジやハイスクールの教師、6冊ほどの著作がある