昨日に引き続き、本書はサイモン・クインの<異端審問官もの>。シリーズ第四作(1974年発表)で、昨日紹介した事情で邦訳は2作目。今回チェルラ異端審問所長とキリー審問官に与えられた任務は、アフリカのトランス・コンゴ出身の黒人枢機卿ジョン・ミーマを守ること。
ミーマは聖職者としてコンゴの発展に尽くしたが、相棒でもあったヨセフ・マケラが独裁者になる過程で迫害されヴァチカンに逃れてきた。しかしこのところ、身辺にマケラの手先である憲兵隊長クラインの影がちらつき始めた。クラインは冷酷な傭兵で、片目・片腕を失った今でも凶悪な戦闘力を持っている。
隠れ家にいたミーマがベッド脇に手を伸ばすと、掴んだのは人間の目玉。心理的に追い詰められたミーマは、徐々に精神に異常をきたし殉教を望むようになる。キリーはクラインと戦うだけでなく、ミーマの内なる崩壊も防がなくてはならない。
とりあえず、ミーマをローマから連れ出さねばならない。キリーは奇策を用い、世俗的な映画監督のヨットにミーマを乗せ、地中海を行く。表紙にあるようなエロチックなモデルや変態のような男(か女?)らに、ミーマは眉を顰めるがキリーはとりあわない。しかし、やはり敵は襲ってきた。キリーは毒蛇の攻撃など、危ない目に遭いながらジブラルタルまではやってきた。
するとクラインが、ソ連製の高速哨戒艇(76mm砲、重機関銃装備)でヨットを攻撃してくる。キリーはライフル付属のグレネードランチャーで応戦するのだが、ついに擲弾も尽きてしまう。
相手がコンゴの独裁者だけに、前作と違ってCIA出身のキリーは、スパイというより戦士として戦う羽目になります。最後の決闘も、殺さないスパイとしてはやむを得ない事態でした。それはともかく、映画監督のいかがわしいヨットで枢機卿を脱出させるのは、正直いかがなものでしょうか?