新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2025-01-01から1ヶ月間の記事一覧

アラモ砦で朝食を

1999年発表の本書は、この3ヵ月デビュー作から1冊/月読み進んできた、ローラ・リップマンの「テス・モナハンもの」の第四作。貧しくなってしまい格差もひどいボルチモアに住む人たちを中心に描いた、質の高い社会派ミステリーである。ただ本書ではテスは…

ロバート・ラドラムの遺作シリーズ

トム・クランシーから少し遅れて、軍事・スパイスリラー系ですごいなと思い、何冊か読んだのがロバート・ラドラム。最近Book-offでも見かけないのだが、たまたま本書(2000年発表)が手に入った。作者もクランシーに倣い、共著者を変えることで作風の違った…

共犯者にならないための条件

本書は、2009年に出版された同題名の本を、序章・終章等を加筆して2023年に再版したもの。筆者の福田充教授(危機管理学)は、コロンビア大学「ザルツマン戦争と平和研究所」に客員研究員として赴任していた時代に、テロリズム研究をしていて本書の原稿を書…

シアトルのソフトボイルド探偵

1980年発表の本書は、リチャード・ホイトのデビュー作。作者はオレゴン州生まれ、ハードボイルド小説好きで陸軍情報部からハワイでのジャーナリスト家業を経て、作家デビューした。この経歴は、本書の主人公ジョン・デンスンと一致している。デンスンはシア…

VIP専属の調査機関

日本のミステリー界には、20世紀の終わりごろ大きなイノベーションが生まれた。トリックのタネが尽きてもう本格ミステリーは書けないと思われていたところ、多くの本格作家が登場したのだ。島田荘司「占星術殺人事件」(1981年発表)あたりがきっかけだった…

リーダーたるべき資質と思考

2005年発表の本書は、「戦争学」シリーズやパズルブックを紹介している松村劭元陸将補の「リーダーたちの言葉集」。1933年のドイツ陸軍教範には「戦場の指揮は、人格・能力・知力による指揮官の芸術」とある。そんな指揮官の名言で、興味深いものを列挙しよ…

アイリッシュの第一短編集

本書は以前「幻の女」「暁の死線」などを紹介したウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)の短編集。1940年代を代表するサスペンス作家で、犯罪小説から変革ミステリーまで、やや暗めのトーンで幅広いジャンルの小説を遺した。20冊ほどの長…

チャルフォードの町の殺人鬼

1972年発表の本書は、英国流の本格ミステリー作家D・M・ディヴァイン後期の作品。これまで「跡形もなく沈む」など、田舎町を舞台にした落ち着いた「Who done it?」を紹介しているが、本書もそういった佳作。 チャルフォードの町で、13歳の少女ジャニスが殺され…

善意ではじまる地獄への道

2022年発表の本書は、拗ね者生物学者池田清彦氏の「SDGs批判」。欧州の格言「地獄への道は善意で敷き詰められている」を引用して、SDGs(*1)の取り組みはその典型だと非難している。 ここに挙げられている項目には、誰も反対できない。しかし地球規模での実…

知っておいて損のないイタリア

2009年発表の本書は、ロンバルディア平原の田舎町クレモナ出身の大学教員、アレッサンドロ・ジェレヴィーニ氏の作品。著者はヴェネチア大学から東大を経て、本書発表当時は早稲田大で准教授を務めていた。日本文化・文学にあこがれて19歳の時に初来日、日本…

グルメ記者の2つのハンディ

本書はこれまで3作を紹介した、リリアン・J・ブラウンの「シャム猫ココシリーズ」の第四作。1986年に発表されたもので、書き下ろされてから出版までに20年近くかかったのには訳がある。1966年に始まったこのシリーズ、毎年1作のペースで発表され、本書も1969…

ヒュー・ベリンガーという男

1979年発表の本書は、先月「聖女の遺骨求」を紹介したエリス・ピーターズの<修道士カドフェルもの>の第二作。実は現代教養文庫で17作目まで買ったのだが、3冊欠けていた。それが光文社文庫版で入手できた。本書と、第五作、第十作である。装丁はもちろん…

最強の官邸に弓を引く

2023年発表の本書は、TV朝日チーフプロデューサ松原文枝氏の、横浜IR戦記。IR基本法に基づき、横浜にMICE*1(本書ではカジノとある)を誘致しようとした政府に対し、公然と叛旗を翻して横浜市長選を闘い、勝ち抜いた<ハマのドン>こと藤木幸夫氏の物語であ…

巨匠のカメラへの愛情

本格から社会派ミステリー、犯罪小説など幅広い作風で社会課題を追求した巨匠、松本清張。ヘビースモーカーだったことは有名だが、カメラ趣味もあったらしい。その特徴が顕著に表れているのが本書(1981年発表)。 A新聞が主催する「読者のニュース写真年間…

鋼の筋肉を持った異常犯罪者

1990年発表の本書は、アル中の無免許探偵「マット・スカダーもの」。作者のローレンス・ブロックはシリアスなハードボイルドを書くときは、この探偵を使う。1ダースほどあるシリーズだが、中期の作品である本書は評価が高く、少なくともベスト3には入る傑…

厳寒の中ソ国境に潜入するクィラー

1978年発表の本書は、昨年デビュー作「不死鳥を倒せ」を紹介したスパイ作家アダム・ホール晩年の作品。地味だが優秀な諜報員であるクィラーだが、上司パーキスとの仲は最悪。部下をチェスのコマのように思っている彼は、平気で嘘もつくし部下を死地に追いや…

「MCGA」の夢実現に向けて

2023年発表の本書は、元中国大使宮本雄二氏の「中国政治展望」。TVニュース番組でもおなじみの、中国研究者である。習近平体制は、異例の三期目に入った。今世紀半ばには米国を押しのけて「富強・民主的・文明的な強国」になるとの目標を建てた。これは「中…

昭和の社会問題を後世に

本書は、西村京太郎の初期の短編集。5編が収められているが、発表年月や最初の掲載紙は記載されていない。解説を詩人の郷原宏が書いていて、作者のファンになった経緯を述べている。解説者によれば、作者は「消えた・・・」シリーズなど大掛かりなトリックや仕…

日本にとってのシーレーン防衛

昨日に続き、経済安全保障関連の書を紹介したい。1985発表の本書は、防衛大学校教授野村實氏のシーレーン防衛史。島国日本としては、海からの補給を断たれれば重大な危機に陥る。生活必需品が市場から消え、インフレが進み、物々交換経済に逆戻りしてしまう…

経済安全保障の教訓、1937

2007年発表の本書は、元石油公団理事である岩間敏氏の太平洋戦争論。日本が無謀な戦争に訴えたのは、直接的には米国からの「禁油」が理由。90年近く前の話だが、ブロック経済が復活しつつあり、日本でも経済安全保障の議論が真剣に行われるようになった今、…

.300口径、アーマーピアシング弾

2019年発表の本書は、国際的ベストセラー作家ロバート・ポビの最初の邦訳本。作者は骨董商出身という経歴で、インターネットのない山荘に籠って執筆をするという。 舞台は数年来の冬の嵐が吹き荒れるマンハッタン、運転中の捜査官が狙撃されて事故が広がり、…

わずか500人の「珍獣たち」

今日は110番の日、2年続けてこの日に元キャリア警察官僚古野まほろ氏の著書を紹介しているが、今年も3冊目を取り上げたい。これまで、 ・警察の階級 巡査~警視総監までの10段階の解説 ・事件でなければ動けません 警察官の行動様式から、彼らを上手く使う…

もっとも有名な古典ホラー

おそらく知らない人のいない「吸血鬼ドラキュラ伯爵」。ルーマニアでトルコ兵を多く殺した、串刺し王ドラギがモデルと言われている。その原本たる本書は、1897年にアイルランド出身の作家ブラム・ストーカーが発表したもの。 小説としては、登場人物の日記な…

大江戸って小さかったんだ

2003年発表の本書は、大江戸研究者大石学氏の編纂になる、東京駅名探訪。東は葛西、北は赤羽、西は羽村、南は大森の中にある56の駅の歴史について、20名の著者が論考を寄せている。 通して思ったのは「大江戸って小さかったのだな」ということ。浅草は郊外の…

デフ・マンに見込まれたキャレラ

1993年発表の本書は、エド・マクベインの<87分署シリーズ>。以前紹介した「キス」に続く作品で、キャレラ刑事たちのライバル「デフ・マン」がまた登場する。例によって複数の事件が並走して、刑事たちを悩ませる。今回は3つの事件+「デフ・マン」の陰謀…

最強の陸軍参謀次長

昨日紹介した「旅順」にも登場するのだが、日本陸軍きっての名参謀と言えばこの人物、児玉源太郎にとどめを刺す。高名な戦略・戦術家メッケルは「児玉がいる限り日本が勝つ」と断言したと伝えられる。1992年発表の本書は、元海軍少尉で軍人の評伝を多く執筆…

愚将たちの要塞攻防戦

今日1月5日は、日露戦争の激戦地旅順要塞攻防戦が終わり、日本側乃木大将とロシア側ステッセル中将が公式に会った日だ。いわゆる「水師営の会見」である。2001年文庫書下ろしの本書は、軍事史作家柘植久慶の「旅順攻防戦史」。 いくつかある日露戦争のハイ…

神話となった共産主義の世界

昨年アリステア・マクリーンの第二次世界大戦三部作の最後「シンガポール脱出」を紹介したが、それに続く作者の第四作が本書。ハンガリー動乱から2年後の1959年に発表されている。舞台は氷雪が舞うハンガリー、ソ連の抑圧が強化され秘密警察AVOの影に民衆は…

<EQMM>が産んだ名手

本書の作者トマス・フラナガンは、アイルランド文学が専門の文学者。1949年に<EQMM>に「玉を懐いて罪あり」が掲載されて以降、10年間短編ミステリーを発表し、表題作「アデスタを吹く冷たい風」で同誌の年間1位を受賞している。作者には他に3冊の長編が…

激情に駆られないように

このDVDは「NCISニューオリンズ」のシーズン4。前シーズンで最初から仇敵同士だったハミルトン市長の悪事を暴いて逮捕し、貧しい人が暮らす地区を守ったドゥエイン捜査官だが、本部やFBIからの監視は一層厳しくなった。DCからはセラピストまで派遣されてき…