新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

三角館の恐怖

 本格的にミステリーを読み始めたのは中学3年生になったころだった。しかし、それ以前にもミステリーを読んだことはある。その代表格が「三角館の恐怖」である。著者は江戸川乱歩、確か子供向けの装幀だった。不思議な館、奇妙な遺言、複雑な人間関係、エレベータの中での密室殺人・・・舞台を三角館と呼ばれる洋館(妖館?)に限っていて、強烈なサスペンスを醸し出していた。何回か読み返したし、謎解き部分は自分でナレーションをしてテープレコーダーに吹き込みもした。

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 ところが、である。大学生のころ、例によって「絶版ミステリー」を捜していた僕は、書評で「エンジェル家の殺人」なる小説の評判を読んだ。不思議な館、奇妙な遺言、複雑な人間関係、エレベータの中の密室殺人・・・あれ、どこかで読んだぞ、でもこのタイトルは記憶がない。

 
 謎が解けたのはさらに20年以上経ってから。エンジェル家の殺人が再販され、その解説に「江戸川乱歩が本編を激賞し、みずから翻案して書き直したのが三角館の恐怖である」と書いてあった。うーん、翻案小説か。大家のセンセイだと「翻案」だけれど、駆け出しがやったら「盗作」と言われるのではなかろうか。
 
 まあ、これも久しぶりに読んで十分楽しめた。幻の作家ロジャー・スカーレットは、本当に達者な本格推理小説家である。江戸川乱歩がほれ込んだのももっともだが、惜しむらくは日本での紹介が不十分である。本格ミステリーの王道とも言える作風で、明快な論理、横溢するサスペンス、怪奇・奇妙な舞台仕掛けと全くソツがない。
 
 これも「名のみ知られた名作」で、ずっと探し求めていたものだった。この作家の作品もちろんほかにもあるようで、もっと別の作品も読んでみたいのだが手に入らないだろうなあ。残念。