新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

竜頭蛇尾の私小説

 斎藤栄という人も、多くのミステリーを書いた。1966年デビュー作の「殺人の棋譜」で江戸川乱歩賞を受賞し、「奥の細道殺人事件」などの話題作を発表した。その後タロット日美子・江戸川警部・小早川警部らのシリーズをいくつか発表している。これまで、最初に紹介した2作についてはコメントしている。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/06/09/140000

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/10/19/000000

 

 「殺人の棋譜」については、将棋好きだった中学生の僕はかなり早い時期に読んだ。当時も面白いと思ったし、今もそう思う。「奥の細道殺人事件」については、高校生のとき読み歴史ミステリでないことにちょっと落胆した。そして本書「Nの悲劇」は書評に「私小説風」とあったので手を出さなかった。

 

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 それでも50年以上たって食わず嫌いもどうかと思い、今回手に取った。野口英世は隠れもなき立志伝中の人物で、日本人が世界で活躍した先駆者である。不幸な生い立ちかかる米国血清学会会長になったのは35歳の時。ノーベル賞候補にもなったが何らかの横やりで駄目になっている。黄熱病研究では一度失敗をし、その恥をすすごうとアフリカに向かい黄熱病で命を落とした。しかしその死には不審なところがあり、殺人だった可能性もある。

 

 作者の父が野口博士より20歳ほど若い薬学者、どうも博士と接点があったらしい。作者は亡父のメモを頼りに、博士の死の謎を解こうとする。手を尽くして調べると博士が死んだときの米国人看護婦がクルーズ船で来日することがわかり、作者は会いに行くのだが・・・。

 

 正直、ここまではとても面白い。しかしここから物語は「普通のアリバイ崩しミステリー」になってしまう。折角大きな謎を掲げておきながら、米国老女の殺人事件とその解決で物語は終わる。「奥の細道殺人事件」でも、歴史の謎と公害というテーマがうまく融合しなかったのが、本書ではもっと乖離したように感じる。「私小説」だから嫌いというわけではないのですが、ちょっと残念な気持ちです。