横溝正史の金田一耕助シリーズは、巨匠市川崑監督によって多くの作品が映画化された。監督はいくつかの大作を発表した後、「女王蜂」で大きな挑戦をした。それは、前3作に起用した大物女優をすべて出演させるということ。
この3人の大女優は他の作品で共演したことはなく、市川監督でなければ集められなかったと言われる。それゆえ原作からは登場人物が1/3ほど入れ替えられているが、ミステリーとしては当然だが大筋は変えられていない。中心人物で絶世の美女大道寺智子は、佐多啓二の遺児である中井貴恵が演じた。
なぜ映画の話から始めたかというと、「Stay Home Week」以来久しぶりにBS映画を録画して見始めたから。その中に「女王蜂」があった。本書も本棚にあり、読んでから見るか、見てから読むかを迷った末、前者を選んだからだ。
横溝作品の多くは岡山県が舞台になるのだが、本書では伊豆の国。下田から船で行く架空の島「月琴島」には、源頼朝の血筋を引く大道寺家が住んでいた。大道寺智子はその次代の当主である。すでに両親はなく、祖母と2人で何人かの使用人に囲まれて暮らしている。18歳になると義父が住んでいる東京に出ることになっているのだが、
「あの娘を呼び寄せるな、多くの血が流れる。彼女は女王蜂だ」
との警告文が届く。智子が生まれる前に父親が不慮の死を遂げた事件が背景にあり、依頼を受けた金田一耕助は智子を迎えに行く使者の役割を引き受ける。
当時(1951年)は、下田~伊東間の伊豆急線は開業しておらず、一行は下田に上陸した後修善寺までハイヤーで天城越えして移動する。投宿した修善寺の温泉宿で、さっそく2件の殺人事件が・・・。修善寺から逃走した不審な男は、タクシーで熱海のある別荘に乗り付けたことがわかる。その別荘の持ち主を聞いて、金田一は事件の奥深さを知る。
作者の最高傑作は「獄門島」だと言われ、市川監督はその次作に本書を選んだ。怪奇趣味はほどほどに抑えられ、頼朝公はじめ高貴な人たちの名前がちらつく物語だ。トリックや意外な犯人も十分、ということで監督は本書を「渾身の一作」の原作に選んだのだろう。さて、それでは今度は映画の方を拝見しましょうかね。