新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

完全犯罪へのヒント

 ミステリーを読み始めた中学生のころ、謎解きが当たったりすると有頂天になり、自分は正義の味方になったような気がしたものである。次々と殺人事件の書籍を読み漁り、人殺しなんて悪いことをする奴を追求するのに没頭していた。名探偵は言うに及ばず警官・刑事は正義の味方、彼らが捕まえてきた容疑者を裁判で弁護する弁護士は悪魔の手先に見えていた。


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 高校生になって法廷ものも好きになったが、ペリー・メイスンは最後に「逆転法廷」をして真犯人を挙げるのだから弁護士ではあるが正義の味方というわけ。そんなころ、ふと手にしたのが本書だった。名探偵という商売が実際にはないことは知っていたし、警官も要は官僚組織の一員だと思ったので、検死官や検察官/弁護士などになれないかと子供心に思っていた。だから犯罪学の入門書かなと思って買ってみたのだ。
 
 メルトン教授はハーバードで教鞭をとり、法理論とローマ法の権威である。母校のケンブリッジに招かれて喜んで列車から飛び降りたのが悪く、頭を打ってしまった。その後遺症か、教授はまじめな講義をしようとするのだが、口をついて出てくるのは完全犯罪など面白話ばかり。
 
 危惧した大学の管理部門によって教授は精神病院に送られてしまうのだが、そこでも犯罪小話を続けて、ついには脱走して偽名でホテルに滞在しそこでも小話を繰り返す。要はメルトン先生が堅苦しい世界から逃げようとするユーモアストーリーなのだが、話中話のバラエティ豊かな短編を連ねたものでもある。これらの短編中に、犯人がまんまと逃げたりずっと軽い量刑で済ませてもらったりする悪漢ものがいくつもあった。
 
 なるほど法律には抜け穴があり、うまく使えば犯罪も見合うものになるのだと気づかせてくれたのが本書でした。ヘンリ・セシルという作者の作品は、これ以外は日本に紹介されていないようです。え?それでお前は完全犯罪をしたのか、ですって?それにはお答えできませんよ。