新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

一人四役

 わたしが語るのは殺人事件の物語です。
 わたしはその事件の探偵です。
 そして証人です。
 また被害者です。
 さらに犯人です。

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 フランスミステリーの鬼才、セバスチャン・ジャプリゾ「シンデレラの罠」のキャッチコピーである。訳者は、作者は一人四役を意図したアクロバット小説を書こうとしたのではなく、出版社が作中の1文を取り出してセンセーショナルなコピーにしたのだとコメントしている。
 
 1962年の作だが、ミステリーベスト10の常連だということで、僕も高校時代に読んでみた。一人四役は確かに成されてていた。しかし読み終わって、何か悪ふざけにあったような違和感を覚えた。このあたりが、フランスミステリー嫌いになった原因かもしれない。 その後フランス人との接点もでき、パリにも何度か出かけるようになって、フランス流の悪趣味(エスプリ)が少しは分かった気もしてきた。そこで、もう一度読んでみることにして例によってBook-offで調達・・・。
 
 二人の娘がいて、共に20歳、金髪、碧眼、身長もほぼ同じ。しかし、一人は多額の遺産相続人であり、もう一人は貧しい。その二人が火事に遭い、一人は焼死、もう一人は手と顔に大やけどを負って記憶喪失。物語は、生き残った一人である「わたし」が病院で目覚めるところから始まる。
 
 この事件が殺人放火だとすると、生き残った「わたし」はどちらなのか。犯人か、被害者か。また現場にいた唯一の証人であり、真実を知りたいと願う探偵でもある。作者はほぼ全編を一人称視点で、だまし絵のような物語を進めていく。読み終わって・・・少しは作者の意図や苦労もわかったかな、と思います。