この言葉は、イギリス首相ウィンストン・チャーチルが、1940年のイギリスが一番苦しい時に言ったものらしい。前年ポーランドを数日で片付けたドイツ第三帝国は、この年ノルウェー・デンマーク・オランダ・ベルギー・ルクセンブルクから大陸軍国であるフランスまでも征服してしまった。
イタリアもドイツ側に立って参戦し、スペインやトルコも潜在枢軸国と言えた。ソ連はドイツとポーランドを分け合うという信用できない動きをしているから、もはや欧州にイギリスの味方はいなかった。米国は相応の軍事援助はしてくれるものの、参戦しないと公約して選挙に勝ったルーズベルト大統領(民主党)の治世である。
ドーバー海峡の幅はわずか40km、小型ヨットや漁船でも楽に兵員や物資を運ぶことができる。現実にダンケルクからは、イギリス兵がヨットや漁船で引き揚げてきたではないか。ポーランドやフランスを倒した「電撃戦」の主役である機甲部隊はフランスの海岸に集結し、イギリス上陸「あしか作戦」の発動を待っている。重装備の多くをダンケルクまでの闘いで失ったイギリス陸軍は小銃すらも事欠く始末で、ドイツ軍の戦車が大挙上陸してきたら勝ち目はない。
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)は、ノルウェーからフランスの沿岸に数千の作戦機を配置し、イギリスに連日空襲をかけてきている。これを防ぐことができるのは、300機程度のハリケーン・スピットファイアとその搭乗員だけだった。ロンドンにも爆弾が降って、市民の危機意識は頂点に達していた。そんな時、チャーチルは題記のような言葉を発した。この意味は、「苦しい時ではあるが、市民は不屈の精神で頑張っている。この時の市民を後年イギリス人は最良の時だったと振り返る」という半ば強がりだとも言われる。
もうひとつの解釈は、連日死と隣り合わせで苦闘している300名あまりの戦闘機搭乗員のことを讃えたというものである。つまり、かくも少ない人々がイギリスを守っているから、彼らとしては最良の時だというもの。僕はこちらの解釈をとりたい。
実は今の(もしくは近未来の)日本は、これに近い状態にある。何度か紹介しているが、重要インフラを含む政府・企業・団体へのサイバー攻撃は激しさを増してきている。一方、日本のサイバーセキュリティ技術者は質・量ともに大変不足している。僕は日々苦闘している彼らに、今が"Your Finest Hour" なのだと言ってあげたい。