新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

安楽椅子探偵のサロン

 アガサ・クリスティーは、長編小説だけでなく戯曲や短編小説でも多くの名作を残した。短編集の数も多い。本書は、その中でもミス・マープルものを集めた短編集である。クリスティーは本書の序文で、「ミス・マープルは私の祖母に似ている」と深い愛着を示している。

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 13の謎とあるように、個々の作品はかなり短い(20ページ強)。それも全部が、甥のレイモンド、元警視総監、女流画家、牧師、弁護士が毎回集まり、自分だけが結末を知っている怪事件を話して聞かせるという趣向になっている。もちろん、毎回正解を言い当てるのはミス・マープルである。甥のレイモンドは作家でもあり、マープルものにはよく登場する。マープルの外界に対する窓口で、時にはワトソン役も務める。レイモンドが毎週火曜日の夜に開くパーティが、この短編集の舞台である。
 
 レギュラーの6人が持ち回りで事件の話をするというパターンは、後年アイザック・アシモフが「黒後家蜘蛛の会」で数冊の短編集を重ねたものとよく似ている。1932年の発表なので、もちろん本書の方がずっと古い。
 
 短い小気味いいミステリーなのだが少し難点を言うと、6人のレギュラーも名字で呼んだり名前で呼んだり、愛称で呼んだりするので誰のことを言っているのかまごつくことがある。その上、話の中で出てくる登場人物も何人かいて、それらの名前がごちゃごちゃになってしまう。
 
 扱っているのは殺人事件が多く、"Who done it?" がテーマになるが、それだと容疑者が数人は必要である。だからますます登場人物が増えて、読者を混乱させる。アイザック・アシモフは「黒後家蜘蛛の会」で、容疑者を一定数必要とする"Who done it?" ものを減らし、"Why?" "How?" などウィットを利かせた小編を並べることにした。後年のショート・ショート等にも影響を与えた、マープルの安楽椅子もの作品集である。