新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

インドの軍事スリラー

 高級織物カシミアを産し、カラコルム山脈を背景にした美しい土地であるカシミール地方。ここを舞台にした、インド発のミステリーに出会った。ミステリーと言えば英米が主体、フランスのものは少し経験したが、ドイツ・ロシアのものは過去に1編づつしか読んだことがない。スペイン・イタリアなどはゼロである。それが突然、本書はインドである。

 
 イギリスの植民地だったインド地域が1947年に独立するとき、イスラム教徒の国パキスタンと多くはヒンドゥー教徒だが一応多宗教国家であるインドに分かれた。その境目で両国+中国が実効支配するエリアに分割されているのがカシミール地方である。

          f:id:nicky-akira:20190418190027p:plain

 
 本書はプロローグで、スティンガー・ミサイルを装備したイスラムテロリストが、デリーの空港近くに潜伏しその情報がインド陸軍少佐のもとに届けられるシーンが描かれる。スティンガーはアフガン戦争でソ連軍、特に攻撃ヘリなどに痛撃を与え、ソ連軍の撤退ひいてはソ連邦の崩壊を招いた象徴的な兵器である。旧式のものでも10km弱の射程はあり、離着陸中の航空機にとっては最悪の脅威である。
 
 アフガニスタンには大量のスティンガーが流れ込み、ソ連軍撤退後も十分な回収は望めなかった。テロリストがこのような兵器を持ってしまったのは、まさに「両刃の剣」。短いプロローグの後、約250ページにわたってジャンムー・カシミール地区(インドが実効支配している地域だが、イスラム教徒が多い)で育つ、ヒンドゥーの少年とイスラムの少年が描かれる。
 
 二人は仲良く育ちながらも別々の道を歩む。ヒンドゥーの青年は冒頭のインド軍の少佐になり、イスラムの青年は独立運動の旗手になってゆく。このあたり、時間や場所が目まぐるしく変わることや、慣れない名前が多いのでついていくのに苦労する。
 
 最後の100ページがプロローグからの続きで、インドの中心で計画されるテロリストの動きやテロを防ごうとするインド軍のせめぎあいを二人の幼馴染を絡めながら一気にクライマックスになだれてゆく。最後は、ジェフリー・ディーヴァーなみの展開である。いずれも核兵器を持っているインド・パキスタンカシミール紛争は、世界の火薬庫の一つである。日本人に馴染みのない地域なので、そこを理解するには適切な参考書かもしれません。