新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格手法の変格ミステリー

 パトリシア・マガーという作家は、あまり日本では知られていないかもしれないが、ユニークなミステリーを残した。1946年の「被害者を探せ」に始まり、初期の5作はおおよそ1年毎に発表されたが、各々独自の趣向を凝らしている。名作と言われるのは第二作「7人のおば」だが、本書は第四作にあたる。


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 本格ミステリーは、殺人事件かそれに類する重大事件が起き、探偵役が登場して被害者(の死体)を調べ、目撃者や証人から聞き取りをし、犯人は誰かを推理し追いつめる。しかしマガーの初期作品はこの常道を外し、探偵が犯人を捜すのではないパターンを毎回変えている。本書では、犯行現場を見たはずの目撃者を探偵役である「わたし」が捜すストーリーである。
 
 わたし、新聞記者のキャラハンは、ブラジルに赴任することになり、なるべくゆっくり行こうと貨客船(本書の中では貨物船とある)を選ぶ。乗客は12名、いわくありげな男女ばかりで、キャラハンは妻を毒殺した疑いをもたれているピーターズという医師と同室になる。
 
 クルーズ船ほどではないにしても、食事で顔を合わせたりバーで一緒になったりするから、自然とピーターズの噂も出る。疑惑が深まる中、やはり船に乗っていたピーターズの亡妻のいとこルエラが船から海に落ちて行方不明になる。
 
 キャラハンたちは突き落としたのはピーターズに違いないと踏むのだが、現場に落ちていたシガレットから目撃者がいたことは間違いなく、その目撃者さえ見つかれば事件は解決すると目撃者探しに奔走する。懸賞で船旅とシガレット1年分が当たった老夫婦が乗客にいて、彼らの配った珍しいシガレットが落ちていたことで、目撃者は絞れてゆく。
 
 最後の解決は、意外な展開を見せる本格ミステリーの常道に沿ったものです。作者は最初に犯人ではなく目撃者を探すシーンを考え、それを可能にするストーリーを組み立てたのでしょう。謎解きそのものは凝ったものではなく、シチュエーションの興味だけで300ページを読ませる珍しい作品でした。