新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

グリーンベレー対スペッツナズ

「ミッションMIA」で壮烈なベトナム未帰還兵奪回作戦を描いた、J・C・ポロックの次の作品がこれ。実は日本に紹介されたのは、本書の方が早い。ベトナムで戦った特殊部隊員が、数年の時を経て昔の戦友と一緒に戦うというシチュエーションは同じだが、今回のメインストーリーはエスピオナージ。CIA中枢にもぐりこんだソ連の大物スパイを巡って、米ソ両国の機関が火花を散らす物語である。

 

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 元グリーンベレー隊員のスレイターは、当時の上官ブルックス大佐に呼び出されカナダの湖沼地帯へ向かう。冒頭の情景はギャビン・ライアルのそれを思わせ、男の物語であることを示している。人気の全くないところで釣りを・・・というのはカバーで、大佐はスレイターに大物スパイの確認をさせる密議をしようとしたのだ。
 
 しかし写真の封筒を開ける間もなく、2人は何者かに襲われ大佐は殺されてしまう。死に際の言葉は「マルヴァヒルとパーキンスも狙われる」だった。スレッサーと大佐も含めてこの4人は最後の作戦で捕虜になり、ベトナム側についていた白人2人を目撃した。一人はソ連の大物スパイ、もう一人がCIAにもぐりこんでいるスパイらしい。彼の顔を確認できるのは米国側に4人だけ。スレッサーと戦友は、何者とも知れぬ攻撃者に再三襲われ、生き残ったスレッサーとパーキンスはカナダの湖沼地帯に逃れ、襲ってくる敵を返り討ちにしようと戦闘準備をする。
 
 ところがこれまで殺し屋や傭兵を差し向けていたソ連側もスレッサーたちの力を認め、本腰を入れてきた。東ドイツに駐留していた特殊部隊(本書ではスペッツナズとは書いていない)1個分隊12名を派遣したのだ。
 
 本筋は大物スパイ探索とその処置にあるのだが、米ソ両側の特殊部隊対決がとても面白い。数に勝るソ連側だが、指揮官パヴリチェンコ中尉はアフガンで失った兵の補充要員に十分な信頼を置いていない。そこで、頼りになる元の部下バンデラ曹長を特別に引き抜いてくる。冷蔵庫が歩いているようなタフガイ、バンデラ曹長はたちまちチームを掌握する。
 
 一方2人しかいないスレッサー側だが、手榴弾クレイモア地雷、密林で役に立つ消音機付きH&K5短機関銃や暗視ゴーグルまで闇マーケットで仕入れている。敵が迫ると、弾倉入れの上下を変えて被弾して暴発するときにでも弾丸が外に向かうようにしたり、地面に伏せたまま楽に水が飲める位置に1個の水筒を固定したりする。このあたりの詳細な描写が心憎い。
 
 最後の50ページ、派手にクレイモア地雷や手榴弾が炸裂したかと思うと、歩哨に忍び寄って頸動脈をナイフで斬るなど鮮烈な戦闘シーンが繰り広げられる。本書も、前作を上回る迫力の戦闘ものでした。