ハーラン・コーベンは大学時代にバスケットボールやフットボールのプレーヤーで、卒業後いくつかの職業に就いたのち、本書で作家デビューを果たした。主人公マイロン・ボライターは、バスケットボール選手として大学で花形、NBLで活躍を始めるが、試合中のケガがもとで引退。FBI捜査官を経て、スポーツ・エージェントとしての活動を始めたばかりの31歳だ。
プロバスケットボール選手としては小柄だとあるが、身長6フィート4インチ、190cm以上の長身だ。6フィート(時代劇流に言えば6尺豊かな大男)クラスの主人公は特に警察小説やハードボイルドに多いが、ここまで背の高い主人公は珍しい。スポーツ・エージェント事務所を、相棒のウィン・ロックウッド三世と秘書エスペランサの3人で運営している。
エスペランサは元プロレスラーという女丈夫、さすがにスポーツ・エージェント事務所だけのことはあると思うのだが、ウィンの方は小柄で細身と弱々しく見えるもののただものではない。大富豪で豪邸に住みオープントップのジャガーをぶっ飛ばすのだが、テコンドーの達人で射撃の名手である。彼はマイロンと違って、血も涙もない行動様式をとる。周辺からは「狂人」と呼ばれ、本書でもマイロンを狙った殺し屋2人を「殺したかったから」という理由で頭部に.44マグナムを撃ち込む。
面白いのは、スポーツ・エージェントというビジネスの説明。日本ハムの大谷選手が大リーグに行けば「投手で200億円、打者で300億円」というメディアもあるように、アメリカのプロスポーツは信じがたいカネが動く。
しかし、若い選手たちに海千山千の球団側と渡り合えと言っても難しい。そこで登場するのがスポーツ・エージェント。本書によれば、契約金や年俸の交渉を行いこれらを釣り上げて、3~5%の手数料(まさに成功報酬)をとる。さらにCM契約も仲介し、これは20~25%を懐に納める。
本書は マイロンが大学の花形クォーターバックであるクリスチャンがタイタンズ(実際にテネシーにあるアメフトチーム)との契約交渉を依頼されるところから始まる。タイタンズのオーナーは、1年半前にクリスチャンの恋人が失踪した事件をタネに契約金を値切ろうとする。そういう理由でマイロンは、この女子大生の失踪事件に介入することになる。
スキャンダルは、スター選手にとって大きなハンデになる。特にCM契約は難しくなる。CM契約の手数料が高いエージェントとしては困った事態である。ヤクザに取りつかれているバスケットボール選手も担当しているマイロンは、こちらでももめごとに巻き込まれ3万ドルの賞金を掛けられたりする。
気の利いたセリフを吐きながら危機を切り抜け、事件の核心に迫るマイロンチームはなかなかしゃれている。展開から見てハードボイルド小説だなと思って油断していたら、最後に立派な"Who done it?" の謎解きを見せられた。途中違和感のある事を見つけたのだが、深く考えなかった。そこがちゃんと伏線でした。これは、2作目も探さないといけませんね。