新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

バスケットボールが得意な子供

 本書はロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」で、長く手に入らなかったもの。1989年発表でシリーズとしては「真紅の歓び」と「スターダスト」の間にあたる。まだ愛犬パールはおらず、ずいぶん若いスペンサー・スーザン・ホークのトリオに会うことができた。

 

 舞台はホームグラウンドのボストン、タフト大学(ボストンにはタフツ大学というものもあるが別物らしい)のバスケットボールチームの疑惑が発端。スペンサーは同大理事長から「チームのエースであるドウェインが八百長をやっているという噂がある」と調査を依頼される。

 

 4年生になったばかりのドウェインは6フィート9インチ、255ポンドの大男だが、スペンサー並みの敏捷性も持っているパワーフォワード。プロリーグからのドラフト1位は確実で、練習などで忙しい中でも中の上程度の成績は残している。

 

 チームは全米決勝リーグ入りが目前で連勝を続けているが、思ったほど得点差は付けられていない。それによって賭け屋が暴利を得ている可能性がある。試合のビデオを調べたスペンサーは、ドウェインが自身のシュートを外すようなことではなく、味方の攻撃をワンポイント遅らせるような巧妙な手口で「得点操作」していることを突き止める。

 

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 その調査結果をタイプしたものを直接ドウェインにぶつけたが、彼は全く反応しない。スペンサーは彼が文盲なのではと考える。するとニューヨークの賭け屋ディーガンがスペンサーを訪ねてきて、手を引けという。取り合わないスペンサーだが、スラム生まれの黒人でバスケットボールだけが取り柄、あとは子供のままのドゥエインの将来を思うと、事実を公表していいかどうかを悩む。

 

 一方ディーガンは秘密を守るため、スペンサーを殺せる男を探して(よりによって)ホークを紹介される。ホークは断るのだが、別の4人組がスペンサーに襲い掛かった。

 

 このシリーズ、警官ならドウェインを逮捕、芋づる式にディーガンや大学の共犯者を捕まえて終わりなのだが、スペンサーはドウェインの将来を考えてより難しい解決を探る。ドウェインの恋人で賢い黒人娘シャンテルの想いも、結構泣かせる。スペンサーは「読み書きを勉強しろ」といい、例え100万ドルプレーヤーになっても引退してからどう生きていくのかと問う。ホークも「無知な黒人のままでは白人のいいなりだ」と諭す。

 

 このシリーズの良さは、こういう温かさにあるのですね。