新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

次々に「シリーズ最高傑作」

 本書(2000年発表)は、ハーラン・コーベンの「マイロン・ボライターもの」の第七作。これまでは一作ごとに違うスポーツの世界を見せてくれていたのだが、本書ではそういうものは出てこない。第五作あたりからスポーツ代理人商売に身が入らなくなってきて、第六作では恋人と避暑地に逃げて行ってしまったマイロンである。本書でも共同経営者となったエスペランサが、経営が危機的だと言ったうえで、

 

 「あなたはバットマン・コンプレックスよ。英雄になろうとして無理をする」

 

 と忠告する。ただ無理のないこともあるのは、このシリーズはマイロンはじめ登場人物の過去に深くかかわる事件に彼らが巻き込まれる傾向が徐々に強くなっているのだ。前作ではプロ入りしたマイロンがオープン戦で負傷して選手生命を絶たれた裏に、学生時代からのライバルであるグレッグがいたことがわかる。

 

 グレッグも同じ年にNBAのドラフトで入団、今も14年選手として活躍している。その上結婚したのはマイロンのかつての恋人エミリーだ。ケガをさせるよう仕組んだのがグレッグだと知ったマイロンは、彼を殴り倒している。

 

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 それが本書では、グレッグとは離婚したエミリーが息子ジェレミーが難病にかかり、治癒するために必要なドナーが見つかったもののドナー候補が失踪してしまったと泣きついてくる。しかも「ジェレミーはあなたの子供よ」と囁く。困惑しながらもマイロンは、ドナー候補者の失踪の背景を探り始めるのだが・・・。

 

 解説によると、マイロンものは新作を手に取るたびに「おお、本書がシリーズ最高傑作だ」と思わせるという。確かに読者を巻き込む(感情に訴える)度合いはどんどん増しているし、解決にいたるどんでん返しの回数も増えている。本書などは、真相の裏に真相、さらのその裏に・・・と終盤の150ページはめまぐるしい。

 

 以前の作品についても書いたが、500ページを超える長編だが無駄口が多い。英語の言い回しや当時の米国事情にうとい人間には、ただ冗長なだけだ。それで相当疲れたところに持ってきて、どんでん返しの連続では読者には負担が大きいと思う。もちろん解説がいうように、前作より感情移入でき解決も複雑なのだが、それが「最高傑作」なのかどうかは、異論もあるだろう。

 

 幸か不幸か、マイロンものの在庫はこれが最後です。疲れるので、第八作が見つかっても買うかどうかは分かりません。