いかに100万人の陸軍や10万人の特殊部隊を持とうとも、米韓軍も60万人規模であり、海空戦力では比較にならないほど戦力差が大きい。だから北朝鮮軍の南進にはかなりの好条件が整わなくてはならない。作者のラリー・ボンドもよく心得ていて、かの国の指導者に多くのアドバンテージを与えた。前編で述べた韓国軍のクーデター失敗による士気の低下や、将校を多数拘束されたが故の戦力低下だけでは十分でない。
・潜水艦等の技術や各種支援物資、さらには義友飛行兵まで。
・米韓関係の悪化による、在韓米軍の撤退開始。
これを戦略的好機と見た指導者は、侵攻作戦「レッド・フェニックス」を発動する。好機であるか否かを問わず、戦端を開く時は奇襲に拠らなければ北朝鮮軍に勝ち目はない。北朝鮮軍は、コマンド部隊による米韓軍総司令マウラレン中将の暗殺、DMZ地下に通した隠しトンネルからの機甲部隊の越境、米韓軍飛行場への空襲などを試みる。
新米将校だったが、ベテラン軍曹に助けられ最前線で成長してゆくケヴィン少尉。F-16戦闘機中隊の陽気な指揮官トニー大尉。トニーと付き合い始める兵站システムのエンジニア、アン。国家安全保障会議の若きメンバー、ファウラー博士・・・などなど。魅力あるアメリカ人が次々に登場、オムニバス映画のように物語に関わってゆく。このあたり、決してトム・クランシーのストーリー展開に劣るものではない。
陸上では、T-72とM-48パットンの戦車戦や、ドラゴン・ミサイル、M-60機関銃、クレイモア地雷が火をふく。北朝鮮機甲部隊に、A-10攻撃機が襲い掛かり中隊規模の戦車を破壊するが、SA-7対空ミサイルがA-10を吹き飛ばす。空中では、Mig-21は蹴散らしたF-16だが、ソ連の歴戦パイロットの乗るMig-29には苦しめられる。Mig-29は空母艦載機のF-14トムキャットとも互角に渡り合う。
北朝鮮海軍は極めて非力だが、それでもディーゼル潜水艦や高速ミサイル艇を投入して米韓軍の軍艦や輸送船を狙う。陸海空で両軍の血みどろに戦いが続き、ついに北朝鮮軍はソウルをほとんど包囲する。米軍は西海岸、ハワイ、日本等から戦力を朝鮮半島へ送るのだが、果たして間に合うか?露骨に北朝鮮を支援し、米軍の妨害をするソ連は参戦するのか?不気味な沈黙を守る中国は・・・?読者は、戦略・作戦・戦術・戦闘各級のウォーゲームを取り混ぜてプレイしているような錯覚にもとらわれる。